第35話 毛利家

 毛利拓斗もうりたくと育子いくこは、生まれてくる子供の名前を考え始めた。

 「男の子だったら『利家としいえ』は?加賀藩の『前田利家まえだとしいえ』からもらってさ。」

 「加賀藩の『前田利家』の『利家』か。日本史が好きな拓斗が思いつきそうな名前ね。」

 「思いついたけど、軽い思いつきで言ったわけじゃないよ。兼六園ツアーのことをいつも思い出せるようにっていう意味だよ。」

 「だけど『毛利利家もうりとしいえ』だと、『利』という字が連続しちゃうわね。苗字の二文字目と名前の一文字目が同じ字だから、『毛利々家』なんて、名前の一文字目に記号の『ノマ字点』を使われたりしてね。」

 「『毛利家』って書こうとしたんだけど、間に『ノマ字点』入れちゃったのかな、なんて思われたりもして。名前として認識されないかもな。ややっこしいか。」

 二人の会話には、笑いが尽きないのであった。


 結局、男の子が生まれたら『毛利育斗もうりやすと』、女の子が生まれたら『毛利拓子もうりひろこ』にしよう、ということになった。

 「二人の子供だ、っていう感じで、いいんじゃない?」

 「そうね。そうしましょう。」

 「どちらの性別でも、もう昔じゃないんだからさ、同じように可愛がろうね。」

 「拓斗って、ホント、肝心なところがしっかりしているのよね。私も全く同感です。昔の風習、やめようね。これからの新しい時代の子供たちなんだから。」

 「子供、たち?一人じゃなくて?今度生まれてくる子供の兄弟姉妹も、これからたくさん作っていこうか!」

 拓斗は育子が妊娠しているので、数か月間、ずっと我慢しているが、浮気をしたいとは全く思わなかった。しかし、出来ることなら、出産直後、女性の痛みが引いてきたならば、すぐにでも育子と結ばれたいと思っていた。


 「俺、今は警備会社でバイトしていて、二人がなんとか暮らせる給料しかもらえていないけど。」

 「私だって働いているんだからいいじゃないのよ。私はノーリス化粧品の社員を辞めるつもりはないわよ。」

 「だけど、子供をたくさん作るんだとしたら、もっといい稼ぎの仕事に就かないといけないな、と思って。」

 「子供のために、職業を考える、か。そうやって、大人になっていくのね。」

 「俺、明日にでもハローワークに行ってこようかな。」

 拓斗は、育子との愛情をベースに、着実に大人の男性になろうとしている。

 育子は、拓斗が大人の男性として健全に成長していくことにも喜びを感じていた。


◇◇◇


 春になり、雪解けも終わった三寒四温の頃、育子は無事に男児を出産した。

 出産を終え、疲れ切っている育子の元に、新しい男の子の命がやってきた。

 「いくちゃん、おつかれさま。男の子だったよ。」

 優しい笑顔で拓斗が育子に語り掛けた。

 疲れ切った育子は、声を出すことは出来なかったが、笑顔になった。

 「『育斗やすと』、はじめまして。こんにちは。」

 優しい笑顔で拓斗が育斗やすとに語り掛けた。

 これから、毛利家の新しい歴史が始まる。


 「これから幸せになってください、毛利育子もうりいくこさん。」

 女帝幽霊の瑠香るかが、この二人の物語はもう見なくてもいい、とみーこに言った。

 「瑠香様は、瑠香様に損害を与えた毛利育子の人生が幸せになることを願われたのでございます。瑠香様、これから瑠香様の『潜在意識』と『顕在意識』を交換する手術をさせて頂きます。元の位置に戻すだけですのでご安心ください。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る