第34話 女帝の成長
季節は冬になった。冬に出会った二人であったが、出会ってから一年が経過しようとしていた。
少し早いかと思ったが、
「やっと『
「これからは『毛利育子』か。すぐに書き慣れるかな?」
「これからはずーっと、『毛利育子』なんだからね、いくちゃんは!」
「お腹の子供も、ずっと一緒ね。毛利・・・なにちゃんになるのかな?」
「そうだ、名前決めておこうよ!男の子と女の子の。」
たった一年しか経過していないのに、ホストと客としての二人は、もうどこにも居なかった。今の二人は、愛情を確認し、結婚を前提に同棲をしていて、お互いがお互いを
一度目の結婚で、このような充足感を味わえなかった育子は、自分の容姿や性格が原因で旦那に愛されないのだ、と思い込んでいた。
お金さえ支払えば優しく接してくれるホストクラブという空間は、当時の育子を心理的に救っていた。拓斗という優しいホストが居なければ、育子は人生に絶望しきっていた、と言っても過言ではない。
ノーリス化粧品は広告宣伝費を押さえ、個人情報を購入して営業を仕掛けて収益を得ている会社であった。ノーリス化粧品が買った、会社付近に住居を持つ個人情報の美人リストに
平吹瑠香の美しさに嫉妬した育子は、瑠香の家を委託販売業務の会場にして、毎回数万円の化粧品を提供し、瑠香の報酬としていた。
数か月、瑠香の家を会場にした頃から、友人の勧めでホスト通いを始めた。拓斗に出会ってドンペリなどの高価な酒を注文し始めたので借金が膨らんだ。旦那に金の相談をしようにも、旦那とは連絡がついたりつかなかったりだったので、手っ取り早く現金が必要だった育子は瑠香に金の無心を始めたのであった。
死後、女帝幽霊に転生した平吹瑠香は、『潜在意識』と『顕在意識』を入れ替えられてしまい、看護師をしていた頃の性格とは全く違った、人間に復讐することを喜びとする人格の持ち主に生まれ変わってしまった。生前、平吹瑠香にひどい仕打ちをしてきた人間たちが、瑠香の『海馬』分析によって割り出され、そのうちの一人が、ノーリス化粧品の販売員の相馬育子だったのだ。
幽霊は、時代や空間を、自由自在に行き来することができる。
生前の平吹瑠香と相馬育子が関わっている辺りの時代まで遡った女帝幽霊の瑠香は、当初、相馬育子に、瑠香から詐取した金銭分の損害を負わせる予定だった。
しかし、相馬育子とホストの毛利拓斗の様子を
二人の様子を観察しているうちに、『顕在意識』になっている元『潜在意識』が健全化してきた。人間に対する『慈愛』に満ち始めた女帝幽霊の瑠香は、相馬育子には
本来ならば、相馬育子は毛利拓斗に妊娠させられ、結婚詐欺にあった挙句、産んだ子供にも逃げられ、孤独死する運命であった。
しかし、女帝幽霊の瑠香は、幽霊の戦闘部隊に命令し、相馬育子と毛利拓斗が正式に結婚できるよう、心理誘導をさせたのであった。
女帝幽霊の瑠香は、毛利拓斗と相馬育子がともに協力し合って幸福な人生を歩むことを願うような女帝へと成長したのであった。
「瑠香様は、この二人を幸せにする道を選ばれたのですな。」
「その方がいいかなと思って。この二人が夫婦になった後の男女の愛情ってものを見てみたくなってきたのよ。幽霊の戦闘部隊を使って、拓斗と育子の心理誘導をしてみたの。そうしたら二人とも結婚したくなって、相手に気持ちを伝えただけで結婚に向けて事が運び始めたわ。」
「大切なことは、瑠香様がどのようにお思いになられるかでございます。この二人のことではなくて、この二人の様子を見て、瑠香様がどのようなお気持ちになられるのかが、今後の世界平和に関わる重要なことなのでございます。」
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