第21話 男性による性的嫌がらせ

 痴漢の罪には、どのような罰が相応ふさわしいのであろうか。


 瑠香は交通機関を使って通勤していた。

 電車やバスなどの乗り合いの交通機関だ。


 瑠香は、身長が低い方ではなかった。

 特に凹凸が目立つ体型ではなかったが、男性の手の高さが瑠香の尻に丁度良く、度々痴漢されていた。


 幽霊の『生前経験分析係』は、瑠香に痴漢をしてきた男たちを全員、割り出すことに成功した。

 もちろん、ほとんどが面識がなく、偶然乗り合わせただけの男であった。


 声紋、体臭、手の形などにより分析したところ、痴漢された回数は369回に上った。

 「こんなにたくさん、痴漢されたなんて!」

 「そうね。あまりにも毎日のように、だったので慣れてしまっていたけど。満員電車で、防ぎようがなかったし。」

 「絶対に許せません!」

 みーこは、怒り狂わんばかりになっていた。

 「ありがとう、みーこ。私の方こそ、こんなに細かい軽犯罪まで、完全に取り上げてくれるなんて。感謝してるわ。痴漢は、心的トラウマ、というよりも、肉体的な気持ち悪さね。」

 「それでは、痴漢犯罪をした者が、吐き気をもよおす機会を!」

 「痴漢の回数だけ、一時的な食中毒のような仕返しがいいかしら。もちろん、混んでいたから、気を付けていたけど、手が当たってしまった、というような、わざと触ったわけではない男は除外で大丈夫よ。」

 「かしこまりました。」


◇◇◇


 「それでは、これからふぐ専門店にて商談の続きをいたしましょう。予約をお取り致しております。」

 「おお、ふぐかね!しばらくぶりだ。楽しみだなあ。」

 大手商社との接待を、ふぐの店で行う、という痴漢犯罪者。


 「痴漢がインターネットで接待の店を探している時に、この店に注目させるようにしました。ここで食中毒をおこさせましょう!この店に迷惑をかけてはならないから、食べ終わってから五時間後に症状を出します。」

 「了解しました。」

 幽霊の戦闘部隊は、打ち合わせをした。


 「今度入った新人の女子がね、アイドルの様に可愛くてですね。」

 「ほほう。」

 痴漢の男と、接待をされた大手商社の男は、酒を酌み交わしながら雑談に花を咲かせていた。


 「失礼いたします。」

 料亭の女将おかみが、ふぐ刺しが乗った大皿を持って座敷に入ってきた。

 「おおぉ、これは豪勢だなぁ。」

 「どうぞ、お召し上がりください。」


 大手商社の男が、ふぐ刺しを、いっぺんに五枚ほど、はしではさんで、しょうゆをつけて口に放り込んだ。

 「んんんん、んまい。」

 「お口に合いましたようで、良かったです。」

 痴漢の男も、二枚ほど箸でつまむと、しょうゆをつけて食べた。


 「いやあ、すっかりご馳走になってしまったね。例の件、前向きに検討させてもらうよ。」

 「是非とも、宜しくお願い申し上げます!」


 大手商社の男はタクシーに乗って、自宅へ向かった。

 痴漢の男は、終電に間に合いそうなので、歩いて駅に向かった。


 痴漢の男は自宅に戻った。

 大手商社の男との商談がうまくいきそうなので、ホッとしていた。

 疲れ切った身体は、やっと自宅のダイニングテーブルを前にして、食卓でくつろぐことが出来た。

 ネクタイをゆるめ、靴下を脱いだ。

 家族は皆、寝ていた。

 「風呂でも入るか。」

 

 電気で沸きっぱなしになっている、家族全員が入った後の湯船につかる。


 ザザー・・・

 「ああー・・・。」


 痴漢の男は、湯をあふれさせながら、風呂にゆっくりと浸かった。

 すると、浴槽の『ぬめり』が、気になりだした。

 「あいつ、ちゃんと洗ってるのかな。」

 痴漢の男が、浴槽から出ようとした。

 すると、『ぬめり』で滑ってしまい、風呂の床に倒れてしまった。

 「いてえ!」

 目の前に、シャンプーのボトルについた黒カビが、ドアップで見えた。

 「うわああ」

 黒カビを見ると、吐き気をもよおした。


 ウッ、ウプッ・・・


 ゲエッ!


 接待で食べたふぐなどを、風呂場で吐いてしまった。



 「結局、食中毒は分かりづらいかたちになりました。風呂場の黒カビの方が、直接の原因のようになりました。」

 「あのふぐの店の職人の腕は確かで、ふぐ毒もしっかりと取り除いたものを提供しているの。店の評判に、傷をつけない方がいいものね。」

 

 瑠香とみーこは、痴漢の内の一人に、このような罰を与えた。

 残りの368名の痴漢にも、これと同程度の罰が与えられた。


◇◇◇


 盗聴・盗撮の罪には、どのような罰が相応ふさわしいのであろうか。


 瑠香は、病院管理者や理事長たちによって、病院や自宅、パソコンなどに仕掛けられた情報徴収機器によって、盗聴や盗撮の被害も受けていた。

 これは、瑠香が感知しなかったものも含まれるが、幽霊の戦闘部隊は、正確に全ての盗聴・盗撮犯罪を洗い出すことに成功した。


 「瑠香様を、はずかしめた罪です!」

 みーこが、また激怒していた。

 「私が気づかなかったものも多いわね。」

 「瑠香様の肖像を盗んだり、盗み聞きをするなどは、到底許すことはできません!」


 病院のトイレや更衣室など、看護師が使用するプライベートルームには、天井の四隅よすみなどに、音声を拾えるピンポールカメラが仕掛けられており、映像を分析したところ、瑠香の姿もしっかりと映っていた。


 トイレを利用した患者や、他の看護師の姿の映像もあった。

 瑠香の姿だけではないのだが、幽霊の戦闘部隊が着目した点は、その映像を見ている理事長などの対話や思考であった。


 病院経営は、厳しいものであったので、行政の上層部の人間や、地域の大金持ちとのパイプ作りに奔走していた理事長は、美人看護師のトイレの映像や、更衣室での着替えの映像などを、地域の大金持ちや上層部とともに視聴するなどして提供していた。


 また、『病院内ネットワークシステム』を、全ての従業員の個人が所有するパソコンやスマートフォンに強制的にダウンロードさせていた。

 その『病院内ネットワークシステム』は、ダウンロード済みの電子機器がある周辺の音声を、バッテリーが残っている限り、盗聴することが可能であるプログラムを含んでいた。

 なので、自宅に帰宅した看護師の性行為の音声なども当然、盗聴することが出来ていたので、そのような音声も地域の有力者とともに視聴する、などして愉しませることによって強固なパイプとしていたのだった。


 有力者とのパイプは、そのようなものだけではなかった。

 『医療用大麻』や『モルヒネ』なども、横流ししていたのだ。

 上層部は、そのような薬物を地元の暴力団などに購入させることにより、莫大な資金を得て、権力を維持していたのだ。


 「磯村さん、この看護師は美人でしょう?平吹瑠香ひらぶきるか、というんですよ。」

 磯村、というのは、地元の有力者である。


 「おー、おほほほ、綺麗な尻だなあ。」

 病院のトイレの盗撮動画を見ながら、理事長と磯村が雑談をしている。


 「そうでしょう?あまりにも美人なので、周りの看護師による嫉妬がすごいんですよ。」

 「あ、平吹さん、トイレで無視されてるね。」

 「そうでしょう?トイレでは、平吹が挨拶をしても必ず無視されていたようですよ。」

 「あっはっは、美人というのは、我々男性にとってはメリットだが、女性にとっては、面白くない存在ですからなあ。」

 磯村は瑠香を認識したようであった。


 「お?更衣室でレズビアンプレイですかな?」

 「ああ、この二人、やはりできていましたか。いやあ、噂にはなっていたんですがね。この二人はいつも同じ部署に異動希望を出していたのでね。胃腸科から産婦人科に二人とも異動になってましたね、確か。」

 「うわあ、ずっとキスしてる!ディープキスですかな?」

 「そのようですね。私は、そのような趣向しゅこうに関心はないのでございますが。」

 「もっぱらヘテロですか。わしはこういう、同性愛っちゅうのも好きだ。特に、女同士はいい。綺麗だからな。」

 「この二人は、スタイルが綺麗ですね。髪型が同じようで、なんだか、双子がやりあってるみたいですね。」

 「うわあ、脚を絡めた!・・・脚も、綺麗だなあ・・・。」


 理事長の女性秘書が入室した。

 「水上君。」

 「かしこまりました。」

 水上、と呼ばれた理事長秘書は、磯村の前で正座し、三つ指をついた。

 薄く柔らかい生地でできたタイトスカートで包まれた太ももの前面の形も、正座することにより明瞭になっていた。


 「おおお、水上さん、こんばんは。頭を上げてください。」

 磯村は、水上のタイトスカートを凝視しながら優しく声を掛けた。


 「今月も赤字経営になっておりまして。是非とも磯村様の資金力が必要なのですが。」

 秘書の水上が、病院の逼迫ひっぱくした経済状態を訴えた。

 「あははは、私に任せなさい。今月、いくら欲しいの?」

 「一千万円ほど・・・。」

 「なあんだ、そんな金でいいの?いいよ、わしが見繕みつくろってやる。」

 

 「磯村様には、今の時点で三憶円ほどはご支援を頂いておりますが、いつになったらお返しできるのか、見通しもついておりませんけれども・・・。」

 「いいよいいよ、もしも返せなかったらさ、この病院の名義をわしのものにしてしまえばいいんだからさ。」

 「もうすでに、実質、そのような状況ではあります。資金をお返しできる見通しが・・・。」

 「わしに任せなさい。」


 実際、磯村は暴力団と強いつながりを持つ有力者だった。

 必要とあれば地上げ、殺害などの指示を出すことが出来、暴力団には、飲食店や水商売やカラオケチェーン店を始めとして、男性の生理的欲求を満たす商売などの斡旋あっせんをして資金を得ていた。

 暴力団に地域での活動を許容することによって、益々資金力を上げていたのだ。

 磯村に意見できる者は、この地域には居なかった。


 しかし、幽霊たちは、磯村が有力者になった時点から、磯村の行動を全てチェックした。

 殺害した人数は数多く、弱い者から資金を吸い上げる方式で、資金作りのために極悪非道を展開している人物であることがわかったのだ。


 「水上君。」

 「はい、磯村様、失礼いたします。」

 大画面の液晶画面で、女性更衣室の盗撮映像を見ながら、磯村の下半身は秘書の水上に癒されていた。

 理事長は席を外した。

 その後女性秘書の水上は、病院の一室のベッド上で、病院経営の資金繰りのための仕事を、磯村に行ったのであった。



 「瑠香様がお勤めになられていた『緑赤十字総合病院』の裏事情でございました。」

 「理事長の顔は知っていたけれど、女性秘書って初めて見たわ。」

 「磯村、という有力者のお陰で、経営が成り立っていたんですね。この磯村という人物からは、瑠香様は直接的な嫌がらせは受けてはいないのだけれども・・・。」

 「私の尻が綺麗だ、とめてはいたけれどね。」


 「そして、病院の理事長は、美人看護師の顔写真付きの個人情報を、様々な企業向けにリストを作成して売りさばいていたことがわかりました。その美人看護師の個人情報リストに、瑠香様の御名前もございました。つまり、間接的に数多くの女性の尊厳を傷つけている、女性の人権擁護じんけんようごさわる人物なのでございます。」


 「こんないやらしい男たちのおかげで成り立つシステムというのは崩壊させるべきだと思うわ。新たな健全なシステムで、医療などの事業を成り立たせるようでなければならないわね。」

 「全く同意見でございます。」


◇◇◇


 幽霊の戦闘部隊は、インターネット障害を起こすことにした。


 また、この磯村が没落するように、マスコミの人間に憑依ひょういした。

 何故か、磯村が殺害した人物や殺害方法についての写真、磯村が指示した地上げの様子、売りさばいている薬物、深いつながりのある暴力団、などがネガに含まれているカメラを見つけさせ、記事を書かせる方法で、社会的に磯村を追い詰める作戦に出た。


 しかし、磯村の権力は強大で、記事が世の中に出回らないように潰されることもあった。


 しかし、ネガは永遠である。


 以前から磯村の動向に疑問を感じていた記者は、自身が勤めるマスコミの会社を通じて事実を明るみに出すことは、今後の機会をうかがってチャンスを待つことにし、自身のブログや自費出版の著書などに書き記して流布るふしていくことにした。


 すると、ブログの記事に目をめた人々の中に、『緑赤十字総合病院』の方針に疑問を抱いていた人間が数多く居た。


 記者のブログを見た人数が、徐々に膨れ上がっていった。


 ついに、集会が開かれ、デモ行進が行われるに至った。

 磯村の顔が、プラカードにデカデカと表示された。

 記者が書いた記事は、暗い事実を述べたものであったので、誹謗中傷に当たる、というよりはむしろ、磯村によって泣き寝入りさせられた人々が、泣き寝入りを辞め、磯村を訴える方向で活動を始めた、といった状況であった。

 『緑赤十字総合病院』をセクハラが原因で辞めた看護師たちもこのデモに参加した。


 「磯村の支配から解放させるぞー!」

 「解放させるぞー!」

 「盗聴盗撮はさせないぞー!」

 「させないぞー!」

 「女性の人権を守るぞー!」

 「守るぞー!」

 「不当な地上げはさせないぞー!」

 「させないぞー!」


 デモ行進は、毎週日曜日に行われた。

 

 磯村は、家族を日本に置いたまま、タイに亡命するかたちとなって、町から出て行った。

 タイで美しいニューハーフの恋人を作ったり、美しい女性を買ったり、豪邸を立てたり、薬物に溺れたりしているうちに、病魔が襲い、タイで骨を埋めたのだった。



 「盗聴や盗撮などの犯罪は、大金持ちがバックに居たりすることが多いのよね。」

 「そうですね。単独でやった場合には、稚拙ちせつなのですぐに摘発されて終わりますからね。このような犯罪が長期間継続する場合には、大金持ちや、警察でも逮捕できない組織が関わっている場合が大半かと思われます。」


 「私はこの犯罪を片付けた後、思いが強くなったわ。」

 「どのような思いでございますか?」

 「この地球上で起きている全ての出来事を、完全な『因果応報』の下で成り立たせるのよ。」

 「素晴らしいことです。これで全ての方々、生き物たちが、理に適った状況の下で生きられることになりますね。」

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