第18話 看護学校時代の体罰

 瑠香るかが看護師を目指して看護学校に通っていた頃、点滴の針を刺す実技の授業で起きた出来事。


 指導教官が、点滴の針を患者の皮静脈ひじょうみゃくに刺す際に、どのようなことに注意すればよいのか、説明をして、被検者に瑠香を指名した。


 もちろん、生徒たちは、初めて点滴の針を人間に刺す前に練習用の人形の腕に何度も何度も刺して練習をするのだが、教官が、実際に人間の腕に刺入するデモンストレーションを瑠香の腕で行うことになったのだ。


 教官が瑠香の腕をつかみ、

「まず、望ましくない刺し方の見本を見せます。」

と言い、皮静脈を起こす前に、適当に皮下穿刺ひかせんししてしまったり、誤って動脈に刺してしまうなどの悪い例を、同じ針を何度も何度も刺しなおして、さんざん生徒たちに見せた。

 最後には、正しい点滴の打ち方を見せたのだが、瑠香のひじの内側は、しばらくの間、青黒くれた。


 「ああ、そういうこともあったわね。あれは痛かったわ。」

 「ひどい体験をなされましたね。あの教官にはいかがいたしましょう?」

 「看護師育成のための実技だから、仕方ないけれど、悪い打ち方を同じ針で何度も行ったのは良くないわよね。その分だけ、罰を与える必要があるわ。・・・そうね、剣山けんざんでどこかを刺してしまうとか。」

 「そうですね。お花を習わせましょうか。」



 看護学校の実技の指導教官は、友人の勧めで華道教室に通うようになった。

 看護学校の生徒が帰宅した後の職員室での対話。

 「私、お花を習い始めたんですの。」

 「そうなんですか。お花は癒されますでしょう?」

 「そうですね。この仕事は何かとストレスが多いですから、ガス抜きが不可欠ですよね。ストレス解消にいいですよ。」


 火曜日の午後七時。華道教室が始まる時間である。

 「それでは皆様、そちらに本日のお花を用意させていただきました。花器かき剣山けんざんを置いて、はさみを使ってご自由に活けてください。」


 指導教官は、剣山を花器に置いた。


 ドンッ!グラグラ・・・


 「キャーッ!」


 直下型と大きな横揺れが合わさったような強い揺れとともに大きな地震が発生した。


 華道教室の畳に座っていられないほどの大きな揺れである。

 壁に留め具で留められていない箪笥たんすが、指導教官のテーブルに倒れてきた。


 「キャーッ!」


 倒れてきた箪笥たんすの上部が花器をかち割り、中に置いた剣山が宙を舞って、指導教官の足元へ、針を上に向けた状態で落ちた。


 「キャ!」


 指導教官は、身体のバランスを崩した。


 グサッ!


 右足のかかとで、剣山を思いっきり踏んでしまった。



 「まあ、私もかかとで画鋲がびょうを踏んだことぐらいは多々あったし、治るから大丈夫ね。しばらく痛みが続くけれど、わざと針でしつこく痛みを与えた罰ね。おあいにく様。」

 「瑠香様に、故意にしたことに比べれば、これは偶然によるアクシデント、ですからね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る