第12話 小学校時代、体育の授業で

 瑠香るかが小学生の時の体育の授業中のような映像を、みーこが流し始めた。

 「瑠香様が小学5年生の時の映像でございます。」


 5年生のサッカーの授業の時にジャンケンで負けてゴールキーパーを任された時の事である。

 サッカーが得意な男子の中に、ゴールキーパーを買って出る者はいなかったので公平にジャンケンで決めよう、ということになった。


 瑠香はサッカーは得意ではなかった。

 キーパーである瑠香をサポートするようなクラスメートもいなかった。


 瑠香はゴールを守り切れずに、得点を相手チームに許してしまった。

 その後、瑠香のチームが1点を取った。

 同点だ。


 「あと3分!」

 試合時間があと3分になった。

 相手チームでサッカーの得意な男子がドリブルで瑠香に向かってきた。

 瑠香は、ボールをよく見てガードしようと思ったのだが、あっけなく得点されてしまった。その後の逆転はなかった。


 体育の授業が終わり、後片付けの時である。

 「お前のせいで、負けたんだからな。」

 キャプテンを気取っているリーダー格の男子が、負けたことを瑠香のせいにした。

 「そうだよ、瑠香ちゃんがちゃんと守ってくれれば勝てたかもしれないのに。」

 瑠香のチームの子供に囲まれ、口々に文句を言われ、瑠香のせいにしている。


 「次の映像でございます。」

 次の体育の授業でのこと。

 瑠香は、またジャンケンで負けてしまい、キーパーになってしまった。


 瑠香は、1つのゴールシュートを、お腹で受け止めてはじき返した。

 「やったー!」

 「瑠香ちゃん、やるう!」

 子供たちは次々と、瑠香の偉業をめた。

 瑠香はその時、ヒーローだった。


 結局0対0で試合が終了し、PK戦に持ち込まれた。


 「瑠香ちゃん、がんばれー!」

 同じチームの女子が大声で応援してくれた。

 シュートを打つのは、休み時間にサッカーばかりやって遊んでいる男子である。


 瑠香のチームは3点、得点できたが、瑠香は4点、逃してしまった。

 

 瑠香のチームは、また瑠香のせいにした。

 「瑠香のせいだぞ!」

 男子が本気で怒って、瑠香にグラウンドの砂を投げつけた。

 砂が目に入ってしまった。


 すぐに担任が保健室に連れて行ったので大事には至らなかったが、瑠香は心身ともに、痛い思いをした。


 「ジャンケンという公平なルールでキーパーを決めても、いざ負けた時には公平性を欠いていたようですね。全責任を、ジャンケンで負けた人にかぶせる、というのは、宜しくないと、我々は、その不公正さに着目致しまして、選定させていただいた次第です。この男子クラスメートに対して、瑠香様、どのようにいたしますか?」

 「目が時々、かすみがかるにしましょう。」

 「いつの時点からにいたしますか?」

 「そうねえ。老人になってからなら、普通だわ。この男子については、二十歳からかすみがかるようにして頂戴ちょうだい。」

 「かしこまりました。」


 幽霊の戦闘部隊は、一旦、瑠香の小学校時代にさかのぼり、その男子が二十歳になった時点で見たものがかすみがかるよう、視神経に細工をした。


 「少し、普通だったわね。」

 「かすみが視力に影響する人は多いですが、中には我々と同じ、幽霊部隊にそうされた方もいらっしゃるかも知れませんね。」


 みーこが、その男子が二十歳になった時の映像を見せた。

 「杖ついて、歩いてるわ。」

 「近くで、子供がボール遊びをしています。」

 バシッ!

 「あっ!ボールが二十歳の男子にぶつかった!」


 「おじちゃん、ボール、取ってくれると思ったのに。」

 「僕が投げたの、わからなかったの?」

 「ボール当てちゃって、すみませんでした。」

 「おじちゃん、とろーい。」

 子供たちは口々に言いたいことを言っている。

 「僕らが遊んでるボールも取れないなんて、のろまだな!」

 「あはははははは・・・。」

 子供たちは、二十歳から離れて、結局みんなで笑っていた。

 

 「このサッカー男は、これ以降、ずっとこんな感じで、見えない目のせいで物にぶつかったり、人にぶつかったり、視覚不自由のせいで辛い思いをすることになるのね。」

 「左様でございます。瑠香様に、砂を投げつけた罰でございます。」

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