第7話 人口削減事業の効率

 地球上の、ありとあらゆる人工物が破壊されていった。

 その都度新しく造り直さねばならないので、各国の財政が逼迫ひっぱくし始めた。


 「経済は、減速させない方がいいわ。各国の中央銀行の残高の『0(ゼロ)』を

右側に二十桁、追加して。」

 「かしこまりました。」


 各国の中央銀行の残高が、謎のハッキングにより大幅に増額した。

 原因不明で増えた残高を頭取とうどりに伝えたところで、ジャブジャブ使えるに越したことはない、と黙認された。

 復興のために、大勢の人間が働き、疲労することにより労働者の死が早まった。


 ちなみに瑠香るかは、すでに死んでいるので、再度死ぬことはない。

 およそ五千年に渡って、地球を統治する予定である。


 ◇◇◇


 自然災害に巻き込むなどの残虐ざんぎゃくな殺し方と、痛みや苦しみのない殺し方。

 瑠香は、効率が良い、無差別大量殺害の手段を選んだ。

 他人の痛みを、自分の痛みのように感じる瑠香は、もう、居ない。

 人間が苦しもうが、辛かろうが、痛くもかゆくもなくなった。


◇◇◇


 およそ五十年をかけて、やっと一憶人、減らすことができた。

 減らしても、減らしても、人間は夏の雑草のごとく、どんどん増えてくる。

 殺しても、殺しても、地球環境を維持できる数まで人口を削減できない。

 死者数が、出産数に追い付かず、全然間に合わない。


 しかし、精査せいさの結果、瑠香の政治方針を受け入れるであろう人間だけを労働者として残しているので、治安が改善して、徐々に皆が住みやすい生活環境に変わりつつはあった。

 「苦しませないように、痛みのないように、ピンポイントに一人一人殺した方が、災害やテロや戦争よりも、住みよい生活環境を整える上では効率がいいかもしれないわね。」


 瑠香は、住民精査を徹底させ、急がせた。

 また、志願者以外に呼びかけることは好ましくないが、幽霊の戦闘部隊を増やすことにした。

 

 研究に研究を重ねた結果、幽霊のクローンを作ることにも成功してしまった。

 もともとの戦闘隊員を五体作ることにして、合計二十五億体の幽霊の戦闘部隊が出来上がった。


 「地上の人間、一人残らず海馬かいばや思想を読み取り、残すべき人間は残し、要らない者は捨てて。」

 「かしこまりました。」


 瑠香の読みは当たった。

 二百年もの間、人口削減を継続したが、やはり個別に痛みのない、原因不明の死をもたらすことが、最も効率が良い人口削減法であることがわかった。


 二百年かけて、ようやく六憶人、削減できた。

 「都合の悪い人間なんて、余りいないものね。」


 「幸福の概念から『家族を持つこと』『出産』『子育て』を除外するような文化的流行をもたらしますか?」

 「なるほど。強制的に不妊や非婚をさせるわけにはいかないけれども、進んで独身の道を皆が選ぶようになれば、人口が増加しないから人口削減が速く進むわね。」

 「それでも結婚、出産の道を選ぶ者には自由を与えますか?」

 「そうね。自由を制限することは、人権侵害にあたるからやめておきましょう。」

 「瑠香様はやはりお優しい。人権重視の考え方ですね。」

 「人口削減が目的ならば、人権侵害をする必要はないでしょ。」

 瑠香の義務である人口削減は、あと四憶人になっていた。

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