第5話 二種類の意識の入れ替え

 瑠香るかのところに、助手と呼ばれる幽霊の研究者たちが数体やって来た。

 瑠香はすぐさま、霊体を透過しない特殊な担架に乗せられた。


 「どこに連れていくんですか?」

 いきなり担架に乗せられた瑠香が、担架を運んでいる幽霊に聞いた。

 「簡単な、『入れ替え』をしていきます。」

 「『入れ替え』?」

 わけがわからないことだらけで、瑠香は不安になった。

 「ちゃんと説明します。大丈夫です。女帝様。」


◇◇◇


 瑠香は別室に連れて行かれ、霊体が透過しないベッドに乗せられた。

 霊体が透過しない目隠しもされてしまった。

 洋服などは、そのままだ。


 「女帝、瑠香様。これからあなたの

顕在けんざい意識』と『潜在せんざい意識』を入れ替えます。」

 手術室の中に、『世界の支配者A』が声だけを響かせた。


 「私が説明いたします。」

 みーこが横から説明を始めた。


 「瑠香様の、ご自覚することができない『潜在意識』をのぞかせていただきました。すると、人間に対する恨みやいきどおり、殺害願望でいっぱいでした。」


 瑠香は、顔面蒼白になり気を失いそうになったが、気を取り直して強気に出た。

 「そんなはずないわ!私は人を恨んだり、人に対していきどおったりしていないわ!」


 「何故、瑠香様が、ご自身の恨み、いきどおり、そして殺害願望をご認識できないのか。それは・・・『潜在意識』という意識が、瑠香様が認識することが不可能な意識の領域だからなのです。瑠香様がご自覚されることは、不可能なのです。我々が観察させていただきましたところ、見たことのないようなとてつもないレベルの、負の感情で満たされた死者の『潜在意識』でございました。これほどまでに、瑠香様の御心みこころは痛んでこられたのだ、ということが、我々の知るところとなったわけです。」


 「そんな・・・全然、そんな認識はありません。」


 「『潜在意識』とは、そういうものなのです。瑠香様は、『潜在意識』に、一切のプラスの感情を芽吹めぶかせないままお亡くなりになられたのです。ですから、これから、瑠香様の『顕在意識』と『潜在意識』を入れ替え、瑠香様の元『潜在意識』が、これからの瑠香様の『顕在意識』、つまり瑠香様がご自覚できるご人格となっていかれるのです。」


 「・・・。」


 「これからの瑠香様の欲望を満たし尽くすには、十億人殺害し、そして先程、二つ目の義務について申しそびれてしまいましたが、ご説明させていただきますと、瑠香様個人の恨みを、完全に晴らさねばなりません。」


 「二つ目の義務は、私の個人的な恨みを晴らすこと?」

 瑠香が復唱した。


「左様でございます。どんな些細ささいなことでも、例えば、通勤電車の中で、瑠香様に痴漢行為をした痴漢は、即死するなどの現象を起こすことが出来ます。死を持って、瑠香様への究極の謝罪となるのです。瑠香様への謝罪の程度に関しては、『潜在意識』が『顕在意識』となられた後の瑠香様の御気持ち次第ではございます。そのようにして、瑠香様のお怒りを買った行為をしてきた人間に、片っ端から罰を与えていく必要がございます。これが、二つ目の義務となるのです。」

 みーこは説明を続けた。

「簡単です。我々が瑠香様の『海馬』を読み解き、記憶から人物を割り出して片っ端から即死させていくだけです。瑠香様は、『海馬』を提供してくれればいいだけで、何もお手を汚されることはないのです。」


 「そんな些細なことで、命を即座に奪うなんて・・・恐ろしい、としか、言いようがありません。」


 「何を言っているんですか。これが、瑠香様の『潜在意識』なのです。このことは、瑠香様が決めたこと、と言っても、過言ではな・・・」


 「やめて!やめて!やめて!」


 瑠香が泣き叫びながら、発狂寸前になった。

 すると、助手が数体やってきて、ベッドにある手枷、足枷を、瑠香の手足をくくり付けてしまった。


 「やめて!放して!やっぱり女帝なんていや!」


 「今更、何を言っているんだ。・・・瑠香様の、この『潜在意識』が、今後の地球を救うのだ!」


 「キャー!」

 

 ビビビビビビビビビビビビビビビ・・・

 何らかの電波が、瑠香の頭部に当てられた。


 瑠香は、霊界で、気を失ってしまった。

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