第35話お風呂を巡ってひと騒ぎ、されど根本的な問題は解決せず

 妹が小学校高学年くらいになっているのに、一緒に風呂に入る兄とか珍しい方ではないだろうか。さらに年下の弟と入るのはあるかもしれないが。


「それじゃあ、総司、私と一緒にお風呂に入る?」


 そんな事を思っていたら真澄から爆弾発言が。何を言っているんだ、こいつは。


「いや、からかうのはよせ」

「おお! 真澄さん、大胆ですねぇ。その豊満なお胸で総司お兄ちゃんを悩殺ですね!」

「悩殺されないから!」


 この場に零がいなくて良かったと思いつつ、ふざけた事を言い出した真澄に言い返す。


「真澄を馬鹿な事言ってないで」

「むぅ……わりと本気だったんだけど」

「いや、嘘だろ?」


 昼間の子供の姿の真澄とも一緒に風呂に入るなんて遠慮極まるのに今の大人の姿の真澄と一緒に風呂に入るなどと。そんな事、する事自体もなんだし、零や色葉になんと言われるか分かったものではない。


「まぁ、お風呂はダメにしても零ちゃんを寝かしつけてあげるくらいは兄の義務じゃないですか? 総司お兄ちゃん」

「あいつは子供じゃないって……」

「そう言いつつ、今の零ちゃんを子供扱いしているんでしょう?」


 それには確かに反論出来ないが。零は大人だと分かりつつも、やはり今の幼い外見を見ていると子供だと思って必要以上に心配してしまう所はある。あんまり表に出すと零が不機嫌になるので出さないが。


「いや、俺は零の事を大人として認めているから」


 だから、俺もこう言うしかない。


「零ちゃんはお兄ちゃんに甘えたいお年頃だと思いますけど」

「零はお前より年上だからな! 色葉!」

「今は年下でしょう?」


 そう言われればぐうの音も出ないのだが。幼い姿になっている零は精神年齢も外見相応に幼くなっているのではと思う事がある。これは初日に一緒に眠った事は絶対に色葉に知られてはいけないな。俺にとっても、零にとっても、不都合な事しかないだろう。


「まぁ、総司お兄ちゃんが一緒に寝てあげないなら、私が一緒に寝てあげますよ」

「拒否ると思うぞ、零」

「そこは年上の力で無理やり」

「だから零は本来、お前より年上なんだが……」


 完全に幼い姿の零を子供扱いするつもりではばからない色葉を説得するのは不可能に思えた。そんなやり取りをしている内に零が風呂から上がって来る。


「お風呂、空いたわよ。誰でも入りなさいよ」


 湯気を体に纏っているが、幼い体ゆえに色気というものとは無縁だ。ああ、と俺は頷くと零は訝し気に俺たちの方を見る。


「どうせロクでもない話をしていたんでしょう」

「そんな事ありませんよ、零ちゃん」

「あんたのその顔を見ていれば察しが付くわ。色葉」


 事実、零にとっては不本意な話をしていたのであるが。そう思っていると零は踵を返す。


「それじゃ、わたし、そろそろ寝るから」

「お子様だけあって夜が早いですねぇ」

「色葉……」

「一人で寝るのは怖いでしょう? 添い寝してあげましょうか?」

「結構よ!」


 色葉の申し出に憤慨して零はそう言い放つと自室に向って行く。やれやれ。困ったものだな、色葉は。


「私では断られてしまいましたか……」

「でも、総司が提案したなら断らなかったと思う」

「いや、断るだろう……普通に」


 二人に辟易して俺は言う。なんだってこうこいつらは幼くなった零をからかうのか。特に真澄。お前、昼間に幼い姿になった際にたっぷり意趣返しされるという事を失念していないか? それは零にも言える事ではあるのだが。今、零が真澄にからかわれているのは昼間、真澄が幼い姿をしていた時に零がからかった事への意趣返しに他ならない。無限ループの連鎖であった。夜に幼い姿になる零と、昼に幼い姿になる真澄。そして、それを他人事と横から眺め、存分にからかって楽しむ色葉。


「色葉。お前、そんな調子だとバチが当たるぞ」

「バチ? 私も零ちゃんや真澄さんみたいに体が幼くなる症状に見舞われるとかですか?」

「それも有り得ないと言い切れないだろう」


 既に身近で零と真澄と二人もの例が出てきているのだ。他の人間に訪れないとも限らない。病院などの施設に行く事はどうせ行っても信じて貰えない。現代の医学ではこの症状を解明出来ないと思ってはなから考慮に入れていなかったが、こうなって来ると零と真澄を連れて医学の世話になる事を考えないといけないかもしれない。零にせよ、真澄にせよ、いつまでも今のままでいる訳にはいかないのだから。

 とはいえ、それにはやはり躊躇してしまう。零と真澄は稀少すぎる事例の当人だ。医者に連れて行ったりしたら、どんな扱いを受けるか分からない。最悪、モルモット扱いをされる恐れも……。今の人権にうるさい世の中ならそんな事はない、と思いたいものだが、いかんせん事情が事情だ。こんな奇想天外な症状を持っている人間を放っておくかと訊かれれば放っておかない気がする。そんな目に零や真澄が遭うのはこちらとしても不本意な事だ。

 さりとて、二人のこの症状をいつまでも放置している訳にもいかず、俺は悩むのであった。



 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 なんだかんだで兄への好意を示す零可愛いよ、他の女の子も可愛いハーレムはいい。

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