第36話真冬のホラー映画鑑賞

 しばらくエタってしまい申し訳ありませんでした!

 私生活もだいぶ落ち着いてきたのでまたぼちぼち投稿再開しようと思います!

 またお付き合いいただけると幸いです!


 翌日。色葉は出かけているが、零と真澄は出かけておらず、家にいる。昼間なので零は大人の姿、真澄は子供の姿だ。案の定、零は小さくなった真澄にからかいの言葉を発する。


「真澄、貴方、牛乳でも飲んだら。そうしないと大きくなれないわよ」

「もう大きくなっている。からかわないで」


 そのからかいは夜になって立場が逆転した時に全て零に跳ね返って来るんだけどなぁ、と思いつつ二人の様子を見守る。テレビで適当に再放送されているドラマを見ている様子だ。男女の恋愛がテーマのドラマで愛憎入り混じったわりとドロドロの男女関係が展開されるドラマである。


「真澄にはまだこういうドラマは早いかしら……」

「早くない。わたしは大人だから」


 ドラマを見ながらも零は真澄をからかい続ける。昨晩の意趣返しという事もあるのだろうが、その意趣返しを今晩になったら真澄が零にし、さらにその意趣返しを翌日、零が真澄にする。やはり無限ループであった。憎しみの連鎖だ。

 零にせよ、真澄にせよ、幼くなった姿は非常に可愛らしいのでからかいたくなる気持ちも分からないではないのだが。俺自身も無意識に子供扱いして不評を買う事もあるし。

 それでもなんとか抑えてくれないか、とは思う。この調子では延々とこんなやり取りが続くだけだ。そんな時、色葉が帰って来た。


「ただいま、帰りましたー」

「意外と早かったな。お帰り」

「ええ、レンタルショップに行って、ブルーレイを借りて来ただけですから」


 レンタルショップでブルーレイを借りて来た? 何かのドラマが映画でも見たいのだろうか。そう思っているとニヤリと笑みを浮かべて零と真澄の前に出る。


「ふふふ、ずばり、このクソ寒い冬に打ってつけのホラー映画です!」

「いや、打ってつけじゃないだろ。夏に見るもんだろ、ホラーは」


 いきなり何を借りてきているのかと俺は思ったが、零が表情をかすかにこわばらせる。零はホラーの類が苦手なのだ。だが、自分より幼い姿の真澄がいる手前、それを表に出す事はせず、堪えている。


「面白そうね。みんなで見ましょう」


 それどころかそんな事を提案する始末だった。色葉に勧められ、俺もソファーに座り一緒に見る事になる。俺の家のプレイヤーにブルーレイディスクをセットして、手慣れた様子で色葉が再生ボタンを押す。出だしはまずは静かな始まり、と思ったのだが。


「きゃあ!」


 いきなり怨霊が画面にドアップで飛び出て来て、零が悲鳴を上げた。そこに色葉が食い付く。


「あれあれ、どうしたんですか、零ちゃん。そんな声を上げて」

「ちょ、ちょっと、驚いただけよ。何でもないわ」

「小さい真澄さんも平気そうに見ているんですから、大人の零ちゃんがそんな事じゃいけませんよー」

「わたしは小さくない……」


 零としても幼い真澄がいる前であからさまに怖がったりする事はプライドが許さないのであろうが、その後、映画が進んで行くにつれて、どんどん零は悲鳴を上げていく。真澄は幼い体ながら、ホラーは耐性があるのかそこまでの反応はしない。その内に、


「おい、零。俺の手を掴むな」

「い、いいでしょう! これくらい!」


 今のお前は幼い姿ではなく大人の姿をしているのに。子供みたいな真似するなよ。そうは思うがさらに映画が進むと共に零はお手の手をぎゅっと握り締める。本当にホラーは苦手なんだな。だったら、無理して見ずに部屋にでも引っ込んでいればいいものを。


「零ちゃん。怖がりすぎです」


 ニヤニヤ笑いで色葉がそう指摘する。零は不機嫌そうな顔をして何か返そうとしたが、画面に映った怨霊の姿にまた悲鳴を上げる。


「零、ビビり」


 幼い体をしている真澄にまでこう言われる始末であった。零はやはり言い返そうとするも、散々、悲鳴を上げている身では何を言い返した所で説得力がない。


「わ、私はこれくらい平気なのよ……ホラーとか言ったって、作り物だし……」


 その作り物にきゃあきゃあ、悲鳴を上げているのはお前なのだが。

 やがて、映画はクライマックス。怨霊が死体に憑りつき大量のゾンビとなって主人公たちに襲い掛かる。零は怨霊のような不気味なものも苦手だが、ゾンビのようなグロテスクなものも苦手だ。零が俺の手を握る力はどんどん強まっていく。ちょっと痛い。それでも、なんとか映画の終了まで零は耐え切った。再生が終わり、メニュー画面に移行すると共に零は安堵の息を吐く。


「あはは、零ちゃん。怖がりすぎです」

「わたしでもそんなに怖くはなかったよ?」

「うるさいわね……二人共。そんなに怖がってはいなかったでしょう!?」


 いや、怖がっていた。大いに。ともあれ、これでようやく零も解放される。と、思いきや。


「まだホラーもの借りて来ているんですよね。これも見ましょう」


 色葉の言葉に零が凍り付く。


「そ、そう時間を無駄に潰す事はないんじゃないかしら……」


 そう言って零が必死に見ないで済むように誘導しようとするが、真澄がその退路を断つ。


「わたしは見たいよ。零は大人なんだから、これくらい余裕でしょ?」

「う……」


 幼い姿をしている真澄でも平気となると零もプライドから見るのを拒む事など出来ない。精一杯のやせ我慢をしてソファから立ち上がりかけた体を再び座り直す。


「い、いいわ。私はホラー映画なんて平気だから。一本でも二本でも三本でもどんと来い、よ」

「それは良かったです。実は五本程借りて来たんですよね。今日は全部見れないですが、これから見て行きましょう」

「ご、五本!?」


 さらりと色葉が言った言葉に零が顔面蒼白になる。何故、このクソ寒い冬にホラー映画を五本も借りて来るのか。零への嫌がらせのためか。色葉も零がホラーが苦手なのは知っているはずだし。

 結局、二本目のホラーもみんなで見る事になった。俺や色葉、そして、幼い姿の真澄も平気そうに見ているのに対して、零はビビりまくりで所々で悲鳴を上げていた。その度に色葉や真澄にからかわれるのだが、この大人の姿でもこれだけホラーが怖いのなら、幼い姿になった時に見るとどうなる事か。夢にでも出て来なければいいが、といらん心配をしつつ、共に映画を見る。相変わらず俺の手を強く握って来て痛いくらいだったのだが、零はそれだけ必死に見ているという事なのだろう。

 二本目の映画もなんとか見終わる。零は大きく安堵の吐息をし、ソファから立ち上がる。


「三本目もいきますか?」


 色葉がまたとんでもない事を言って来るが、零はそれを退ける。


「これ以上、映画鑑賞に時間使ってられないでしょ。夕飯の支度をするわ。べ、別に私がホラーが怖い訳じゃないからね」


 説得力はなかったが、確かにいつまでもホラー映画を鑑賞し続けるのもどうかと思う。


「えー、せっかくの冬休みなんですから、こういう事に時間を使ってもいいじゃないですか」

「わたしに冬休みとかはない。いつでも自由」


 不満を垂れる色葉に笑えない事を言う真澄。おいこら、ネカフェ難民。そんな情けない事言ってないで社会復帰しろ。今の体では無理だろうが。

 ともかく零は自分の体が小さくなる前に夕食の支度をするつもりのようであった。俺もキッチンに立つ。


「手伝うよ」

「悪いわね、お兄ちゃん」


 とりあえず今日は兄妹で夕食の支度をする事にしよう。また零の体が小さくなったらひと悶着あるだろうが、とりあえず今の所は。零としては先ほど見た、二本のホラー映画の記憶を忘れ去るべく料理に集中していた。それなら手伝いはすれど、邪魔をする事はしまい。やや夕食の支度には早い時間ではあったが、それを指摘する事はなく、俺たちは料理をするのであった。

 まぁ、多少早い夕食になっても特に問題はない。零としても自分の体が大人の内に、夕食を食べたいという思いはあるのだろう。

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