第31話二人目の妹なんです。窮地を脱するために

「な、なんとか間に合ったな……」

「う、うん。着替えるからお兄ちゃんは外に出て。着替え、持って来てくれたんでしょ?」

「あ、ああ。だが、今俺が外に出ると他の人に見られる恐れがある」


 俺が男子トイレの個室から出てくるのは何も問題ないのだが、その後、零が出てくるとなると何を思われるか知れたものではない。

 女子トイレに男が入ったら大問題だが、逆はそれなりに許されるとはいえ、幼い体とはいえ、トイレに父や兄の介助が必要なようには零は見えない。


「じゃあ、お兄ちゃんの前で着替えろって言うの!? わたしが!?」


 零は声を上げるが、それしかない。


「俺は目線をそらしておいてやるから、さっさと着替えろ」

「しょ、しょうがないわねぇ……」


 トイレの個室の壁に視線を向ける。とはいえ、トイレの個室はそう広いものでもなく、零の体が縮んでいて小さくなっているから、なんとか俺が一緒に入っていても着替えれる。しばらくして零は着替え終わったようで、大人の時に着ていた服を差し出して来た。


「パンツとブラは?」

「そ、そんなものまでお兄ちゃんに出さないといけないの?」


 零は血相を変えるが、大人の時に着ていたパンツとブラが今の零の体に合うはずはなく、脱いでいるはずだ。それをここに放置して行く訳にもいかない。零は顔を真っ赤にしながらパンツとブラを差し出し、俺は零の服と合わせてそれをバッグの中にしまい込む。最大限、変な意識はしないように努力した。


「さて、とりあえず最悪の事態は避けられたが……」


 零の高校の友人に零の体が縮む所を見られずには済んだ。最悪の事態は回避したと言える。しかし、この後どうするか。零の友人たちからすれば唐突に現れた友人の兄が友人をトイレに連れて行ったのだ。変な勘繰りをされている恐れもあるし、零は今は幼い少女の姿なのだ。今の零を零と言って友人たちと接しさせる事にも無理がある。


「零。お前にはまた俺の二番目の妹、市になってもらうぞ」

「……仕方がないわね。行きましょう。みんなを待たせている訳にはいかないわ」


 そう言い、男子トイレの個室から出て、零の友人たちの元に戻る。


「あれ、お兄さん。零は?」

「その女の子は誰ですか? 可愛いわね」


 案の定。零の友人たちは唐突に消え去った零と唐突に現れた零の兄と唐突に現れた見慣れぬ少女に反応を示す。零は口を開いた。


「わ、わたしは零お姉ちゃんの妹の市です……」

「え? 零に妹なんていたんだ」

「初めて聞く話ね」

「でも、確かに零に似ているね。可愛い女の子ね」


 困惑しつつも零の友人たちは零の妹、市の存在をとりあえずは信じてくれたようだ。


「ところでお兄さん。零はどこに行ったんですか?」

「あ、ああ……零には緊急の用事があってな。先に帰った」

「えー! 私たちに一言も告げずに~?」

「悪いとみんなに伝えてくれと言われているよ。どうしても外せない用事だったんだ」


 やや無理がある言い訳であるが、これで押し通すしかない。まさか、目の前の幼い女の子が零だ、などとは言えないのであるから。


「も~、零ったら仕方がないなぁ」

「今回は市ちゃんの可愛さに免じて許してあげるって零に伝えておいてください。お兄さん」

「あ、ああ、しっかり伝えるよ」

「ごめんなさい」

「市ちゃんが謝る事じゃないよ~」


 市イコール零であるのだから謝るのも当然なのだが、その事実を話す訳にもいかない。


「市ちゃんを零に代わりに一緒に……と言いたいけど、市ちゃんにはもう遅い時間かな?」

「どう見ても小学生くらいだしね。連れて歩く訳にはいかないか」

「い、いえ、わたしも良ければみんな……お姉さんたちとご一緒したいです」


 幼い市を家に帰そうかという流れになっている中、零は一緒にまだ遊びたいと言う。正体がバレる危険があるのだから俺としてはこのまま家までとんずらしたい所なのだが、零はまだ友人たちと一緒にいたいようだった。


「お兄ちゃんはもう帰っていいよ。わたしはお姉さんたちと一緒に遊ぶから」

「そういう訳にもいくか……」


 今の零を一人で外に出したままにするなど許せる事ではない。俺の言葉に零の友人たちも反応する。


「そうですね、お兄さんも一緒にどうぞ」

「私たちは別に構いませんよ。市ちゃんもお兄さんも一緒でも」


 どうやら幼い零の存在も俺の存在も快く受け入れてくれたようだ。それから一緒に買い物をする事になった。普段は接する機会の少ない幼い少女が傍にいる事で零の友人たちは幼くなった零を大いに可愛がっている。零自身はそれに不服そうではあったが。


「お兄ちゃん、わたしの友達に色目使わないでよね」

「使うか、馬鹿。お前こそ正体がバレないように気を付けろよ」


 小声で俺に話しかけて来た零に応える。その体になっても友達と一緒に遊びたいものなのかと思うが、本人がその気である以上、俺も一緒にいて色々と配慮しなければならない。

 余計な事を口走りでもしなければ正体がバレる心配は少ないとはいえ、高校の友人たちと一緒に幼い体でも買い物を続ける零の姿をヒヤヒヤしながら俺は見守る。変な事にならなければいいんだけどなぁ。



 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 ロリ化する体に困る零可愛いよ、ロリになっても友達に付いて行こうとする零無理すんな、周りの猫可愛がりも分かる。

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