第17話トラブル続きの予感

 俺が食器を洗い終わった頃、零と色葉が風呂場から出て来た。


 二人共湯気を漂わせて、色っぽい雰囲気……いや、零はそんなにでもないか。


「はぁ……」


 大きくため息を吐く零。そんな零にニコニコと色葉は笑いかける。


「零ちゃん。一人で寝るの怖いでしょう? 今晩は一緒に寝てあげるね」

「いらないわよ、そんなの。怖くもないし」


 最初の晩。一人で寝るのが怖いからと俺のベッドに入って来た事は言わない事にしておいてやろう。


「大体、まだ寝るには早いでしょう」


「子供はもう寝る時間ですよ♪」


「だから子供じゃないって……」


 そう言って強がる零であるが、既に眠そうだ。

 精神が大人と言い張っても体が子供ではあまり夜更かしは出来ないのであろう。


「お兄ちゃんからも色葉になんか言ってよ」


 困り果てた零は俺に助け舟を求めて来た。

 しかし、何か言ってと言われてもなぁ。


「そうは言っても今の零が子供の体なのは事実だしな……」


「お兄ちゃんまでそんな事言う! わたしは大人よ!」


「大人ぶって可愛いですねぇ~」


 どんどん不機嫌になっていく零とは対照的にどんどん上機嫌になっていく色葉。


 やはり妹が出来たようで嬉しいのだろう。

 何かと面倒を見たがっている。


「見たいドラマがあるのよ」


「子供がドラマなんて見るもんじゃないですよー」


「色葉、あんただって中学生で大して変わらないでしょう……」


「あ、自分を子供だって認めましたね?」


「認めていないわよ!」


 憤慨しながらリビングの液晶テレビの前に座り、リモコンをいじる零。

 いつも見ている恋愛ドラマだろう。恋愛ドラマなんて今の零にはまだ早い……いや外見は子供になっていても中身は女子高生なんだからそんな事もないか。


 色葉もそれ以上言うのはやめにして、隣で一緒にドラマを見る事にしたようだ。その間に俺は風呂に入る事にする。


 幸いな事にお兄ちゃんがわたしが入った後のお湯に浸かるなんて嫌、とは言われていない。

 別に妹や従姉妹が入った湯舟に何か思う程助平ではないが。


 男の風呂なんて女の風呂に比べれば一瞬だ。

 さっさと体と頭を洗い、湯舟に浸かって暖かさを堪能するとさっさと上がる。


「わあ、お風呂早いですねー、総司お兄ちゃん」


「ちゃんと体洗っているの?」


 失礼な。ちゃんと洗っているぞ。一時間ドラマはまだやっているようであった。


 俺はこの間に冬休みの課題レポートを進めておこうと自室に戻りパソコンを起動する。


 コツコツ、レポートを進めているとまたリビングの方から騒ぎ声が。

 なんだ、と思って行くとどうやら零は眠る事にしたらしく先ほど言った色葉が一緒に寝るか寝ないかで揉めているようだ。


「わたしは一人で眠れるわよ!」


「そう言わないでー。一緒に寝ましょうよ、零ちゃん」


「結構よ!」


 零は断固拒否の姿勢を見せるものの、色葉に押し切られる形で結局、一緒に寝る事になったようだ。


 零と色葉が零の部屋に消えて行く。


「それじゃあ、総司お兄ちゃん、お休みなさい」


「……おやすみ」


「ああ、二人共、おやすみ」


 まだ早い時間だが、子供の体の零には眠気が限界なのだろう。

 それを見送り嘆息する。


 また面倒な事になっちまったなぁ。

 色葉もまさか明日、家に帰るという事はあるまい。しばらく騒がしい毎日が続きそうだとの予感を俺は覚える。


「ちょっと! そんなにくっつかないでよ、色葉!」


「いいじゃないですか~」


 零の部屋の方から何やら聞こえて来るが聞こえない事にする。


 どうしてこんな事になってしまったのか。零は何故、夜になると体が縮むようになってしまったのか。

 疑問は尽きなかったが今そうなってしまった以上は仕方がない。


「零もいい加減、慣れてくれるといいんだけどな……」


 こうは言うものの幼い少女の体になる事に慣れろというのはなかなか厳しい申し出であろう。


 本人としては常に女子高生であるつもりなのだ。

 それが夜になると体が縮むなどという全くもって不本意な体質になってしまい、一番戸惑っているのは本人だ。


 これからも面倒な日々が続くだろうなぁ。体が縮むのが夜なのはまだ救いと言えるが。昼間だったらさらに大変な事になっていた所だ。


「本当に、どうなる事やら……」


 トラブルの種はいくらでもある。

 我が家の混乱は続く事だろう。この先の事に思いを馳せて、俺はため息をつくのであった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。

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 色葉と零のやり取りが面白い、子供の体でも大人と主張する零が可愛い、ロリである自分を認めたくない零がいい、苦労人気質でも面倒見の良さそうな主人公に共感する。

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