第12話イロハ姫の襲来


「断ってよ!」


 翌朝。

 元の姿に戻った零は色葉がこの家に来るという事を知るとそう言った。


 無理もない。色葉がこの家にお邪魔する、だけではないだろう。


 あのメールの文面から察するに。居候すると告げているも同然だ。

 そうなれば零の秘密が露見する恐れがある……いや恐れがあるどころではなく、確実にバレる。


 一緒に暮らしていれば隠し通すのは不可能だ。


 そして、いつまでいるのかについてもメドが立たない。

 元々、従姉妹の家はこの家の近くで、色葉が通う中学校もこの家から充分、通える位置にある。


 冬休みが終わった後も居座り続ける可能性がある。


 色葉は父方の従姉妹であり、俺の父の二つ年下の弟の一人娘である。


 住まいが近所という事もあり、昔から付き合いが深い仲で、実際の兄妹でもないのに俺の事を「お兄ちゃん」などと呼ぶ程度には仲がいい。


 余談だが、色葉、というのは伊達政宗の娘・五郎八(いろは)姫から取ってつけた名前である。

 俺の名前の総司が新撰組の沖田総司から取ってつけられたようにうちの親族には歴史上の人物から名前を取る事が多い。妹の零など例外はいるが。


 さらに余談ながら五郎八姫という武骨な漢字は元々、伊達政宗が子供が生まれる際に男児が生まれるものと期待して男児用の名前しか用意していなかったのが、女児だったのでそのまま読みを変えて付けたという経緯がある。


 つまり本来なら幼名・五郎八(ごろうはち)と名付ける予定であったのだ。

 そんな経緯はあれどあの伊達政宗の娘の名前である事に違いはなく、流石に漢字表記をそのままにすると可愛くないので色葉という漢字があてがわれたという訳だ。


「私、あの娘の事、あまり好きじゃないのよ」


「そうは言うが……どういう理由で断るんだ?」


「そんなものいくらでもでっちあげられるでしょう? 大体、従姉妹だからって居候するなんて発想の方がおかしいわよ」


 零の言っている事はわりと正論であるのだが、その根底には今の自分自身が抱えている秘密を隠したいという思いがあるのが俺には分かった。


 仕方がない。色葉には悪いが、今回はこの話は断って、ご両親と仲直りしてもらう事にしよう。そうメールを打とうとした時だった。


 ――ピンポーン。


 チャイムの音が鳴り響き、俺たちはビクりとする。


「た、宅配便か何かよね……?」


 そう言う零であるが、既に事態を察しているのは顔を見れば分かる。俺はインターホンに繋がる受話器を取り、そのカメラが映した映像を見る。


『やっほー、総司お兄ちゃん。久しぶり。零ちゃんもいるー? 来たよー』


 血縁の繋がり故か、零の面影を感じさせつつもやや幼い、しかし、整った顔たち、零には及ばないまでも中学生としては大きめの胸。間違いなく俺たちの従姉妹の桐原色葉であった。



 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 従姉妹の襲来、これに対してロリになる体の零はどうなるのか?

 賑やかになりそう、零が困る様子が楽しみ。

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