第6話ロリの舌にはカレーは辛い



 その日の夜。時刻は午後7時。


 やはりこの時間が零の体に変化が訪れるポイントのようだ。


 零は自室に籠り、今日買って来た子供用の服に着替えて出て来る。その姿を見た俺は思わず声を漏らす。


「なんか、昔にタイムスリップしたみたいだ……」


「な、何よっ。お兄ちゃん」


 縮んだ体でどう見ても小学生くらいにしか見えない零が子供用の衣服を纏っている姿はかつての情景を思い起こされる。


 昔は零もこんな姿で今みたいに生意気なんかじゃなかったなぁ、とつくづく思う。

 そんな感傷に浸っている俺を零は胡散臭げに見る。


「今日の晩御飯はわたしが作るわ」


「いや、俺が作るよ。子供に無理させられないだろ」


「子供じゃないわよ!」


 語気を荒くして零は言うが、今の零は子供としか言いようがない。


 キッチンでも背が足りず、椅子を足場にする必要があるだろう。


 そんな零に無理に料理をさせるくらいなら俺が作るというものだ。


「まぁ、零はそこで待ってろ。適当に仕上げてやるから」


「子供じゃないって言っているのに……」


 不承不承、零は引き下がり、俺が料理を作るのを待つ。


 今晩の料理は得意料理にして好物のカレーだ。カレーは決められた手順通りに作れば絶対に失敗しない料理である。


 俺は順調にカレーを作り、二人分の皿にご飯と共に盛り付けると食卓に出す。


「カレーね。お兄ちゃん、ホントにカレーが好きね」


「悪いか」


「いえ、別に」


 そう言い、二人していただきますをして、食べ始める。が、零の表情が曇った。


「どうした?」


「ちょ、ちょっと辛すぎない?」


「いや、いつも通りに作ったんだが……」


 そこでハッとする。今の零の体は子供のものだ。


 高校生の体なら特に何かを感じる事もなく食べられる料理も子供の零の舌にはきついのかもしれない。


「すまん。今の零は子供だったな。もうちょっと甘口にするべきだった」


「な! 子供扱いしないでよ! これくらい余裕で食べられるんだから」


 そう言って零はスプーンでカレーを口の中に運んでいく。しかし、やっぱり辛そうだ。


 これからは子供の舌に合わせた食事を作らないといけないな。そう思いつつ、俺もカレーを食べる。


「ピーマンやニンジンは食べられるか? 無理なら以後、作るのは控えるが」


「だから、子供扱いしないでって言っているでしょう! 子供じゃないんだから野菜くらい食べるわよ」


「いや、今のお前は子供だろ……」


 本人がどう言おうと今の零が、夜の零が子供である事に違いはない。その言葉に大層、不服そうな様子で零はカレーを食べていく。


「く、辛い……」


「水を用意するよ」


「そ、そんなものはいらない……と言いたいけど、貰っておくわ」


 コップにミネラルウォーターを注ぐと凄い勢いで零はそれを飲み干す。やはり、子供の舌には辛すぎるカレーだったか。


 少し反省。夜の零は子供なのだ。それに配慮しなければならない。兄として。


「歳の離れた妹が出来た気分だなぁ」


 率直な感想を口にすると、零は唇を尖らせる。


「わたしは元々、お兄ちゃんの妹よ。この姿も夜だけでしょう?」


「それもそうなんだがな……」


 どう見ても小学生かそこいらの妹を見ていると相手を零と認識し辛くなってしまう。


 子供の体は精神にも影響を与えているのか、高校生の零より幾分か素直な印象を受ける。


 零がリアルでこのくらいの頃はお兄ちゃん、お兄ちゃん、と慕ってくれたっけ。そんな思い出が脳裏をよぎる。


 そうしている間にカレーを食べ終わる。


「洗い物はわたしがするわ」


「いや、いいよ。俺がやるから」


 今の小さい妹に無理をさせる訳にはいかない。俺は率先して流しに立つと皿を洗い始める。


 鍋にカレーはまだ残っているので明日の昼飯、さらには晩飯もこれでまかなえるかもしれない。


「うー、なんだか子供扱いされている気分」


「子供だろ」


「そ、それもそうなんだけど……心は大人よ」


 そうは言うが、明らかに子供の体の影響が精神に及んでいる気がする。体は子供、頭脳は大人な名探偵とは少し事情が違うという事か。


「お風呂入って来る」


「俺も一緒に入ろうか?」


 冗談めかして俺が言うと零はこちらを振り向く。


「それもいいかも……いや、良くないわよ! お兄ちゃんはわたしの裸が見たいだけでしょ!」


「馬鹿いえ。何度も言うが、高校生のお前ならともかく、今のお前に色気なんか感じるか」


「そ、それはそれでショックだけど……」


「俺はお前がちゃんと体を洗えるのか心配して……」


「体は子供でも心は大人だって言ったでしょう! 出来るわよ、一人で!」


「シャンプー恐くないか?」


「小学生じゃないんだから!」


 憤って零は脱衣所に消えて行く。半分以上冗談だが、今の零の体でキチンと体を洗えるのか心配したのもわりと本気であった。


 本人があそこまで拒むのなら無理に一緒に風呂に入ったりはしないが。ちなみに俺はロリコンではないのでマジで今の零の裸なんか見てもなんの魅力も感じない。


 やはり女性は胸が大きくないとな。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

ロリ化した肉体のせいで思うようにいかない妹が可愛い。

カレーに悶絶する妹が萌える。

兄妹のやり取りが面白い。

そんな風に思ってくださった方は星評価やフォローをしていただければ嬉しいです。



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