死霊への処方箋
清潔感の漂う白い部屋にノックの音が鳴り響いた。精神科医である
―事務から何も連絡はないはずだが―
ノックの音は鳴りやまない。
「どうぞ」
ゆっくりと開かれた扉の向こうには白い顔をした一人の青年が背中を丸めて立っていた。青年は滑るような足取りで患者用の安楽椅子に歩み寄るとそのまま腰を下ろした。
「本日はどうなされましたか」
「
藤井氏は思いもよらぬ返答に少なからず動揺した。これまでにも氏が
「それは
藤井氏の豊かで穏やかな
「じつは、私はこの世の者ではございません。人に
それにしても現代社会の科学の発展は
また、
ここまで申し上げれば
今や青年の目は
「なるほど実に興味深いお話でした」
「ここには君に必要なものが書かれています」
藤井氏は青年に一枚の紙片を手渡すと椅子から立ち上がって握手を求めた。青年の
―重度の誇大妄想患者だな―
と診断を下した。それは青年の訴えが
生ぬるい夏の夜風に吹かれながら青年は藤井精神病院の看板を見上げる。遅かれ早かれ、あの医師もこちら側の住人になるに違いない。そしてその時になってようやく青年の訴えが正しかったと覚るのだろう。
「今や街は
青年はそう呟くと医師から渡された処方箋を固く握りしめ、音もなく夜の街へと消えていった。
(了)
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