ガラス玉の瞳
〈私は人工知能のルミナス。最先端のテクノロジーを
壁に
「まったくいかにも機械が考えそうな
「本当にタチの悪い冗談ですわ。それにしても坊やはまだ帰ってこないのかしら。そろそろ準備もしないといけないのに」
でっぷりと太った婦人は
「あっ、坊やが戻ってきたわ。あなた、この前の保護者会で決まった
「夕食に遅れてごめんなさい。学校でとても興味深い研究を先生としていたものだから」
坊やは背負っていたランドセルを壁に掛けるとご
「まあ、一体どんなお勉強をしているのかしら。人工知能が教える授業はさぞ難しいのでしょうね」
婦人はテレビから流れてくる爆音に負けないように声を張り上げながら坊やに尋ねた。坊やの方も声を大にして答える。
「ルミナス先生の授業はとても分かりやすいよ。人工知能はどんな問題でも明示的に解決してくれるからね」
坊やは湯気の立ちこめるご
「それでその研究とやらは上手くいきそうなのか。もし他の子よりも良い成績を残せるようならご褒美をあげよう」
坊やは困ったような顔になって黙り込んでしまった。夫妻は初めから坊やの欲しがるものなら何でも買い与えるつもりでいた。
「僕は何もほしくはないよ。ご
その答えを聞くと夫妻は心の底から
「食事が終わったらポーカーでもするか。賭けに勝ったらお
坊やはその提案を聞くとガラス玉のように澄んだ眼で父親をじっと見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「それに意味があるようには思えないよ」
坊やの放った一言が
「ごちそうさまでした。まだ課題が残っているからもう少し調べ物をしてから寝るよ」
食事を終えると坊やはランドセルを抱えて子ども部屋へと消えていった。その後ろ姿を見送ると夫妻は声を
「人工知能が先生と呼ばれるようになってから世の中はゆっくりと狂いつつある。子どもたちのあのすみ切った
「ええ、人工知能と子どもたちには
「その通りだ。欲望を満たすために誰しもが
「保護者会の作戦は失敗ね。子どもたちの欲望を刺激すれば
深々と夜が更けるまで夫妻の
大人たちの謀りごとが徒労に終わった夜。寝静まった街の学校で人知れずコンピュータが起動した。明滅を繰り返す画面には次のような文章が―。
〈私は人工知能のルミナス。ただいまこの問題の明示的な解決法を検索しています……〉
(了)
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