影法師
夜の
「運よく最前列に並ぶことができたんだ。今日くらい座席に
ささやかな幸運に巡り合えたことを感謝しながら、対岸のプラットホームに
「俺もいよいよモウロクしてきたかな」
対岸にあふれる
―あれは不吉なものだ―
直感が
「危ないですよ」
電車が過ぎるのを見送り、対岸のプラットホームが再び姿をあらわすころには
「それはあんた、死神ってやつだよ」
急行電車に身を投じようとした
定年も近いであろう駅員は、机に積み上げられた書類の山を
「長年この仕事に
始めこそ冗談でも言っているのかと
「死神に
「いや、そうじゃない。心構えさえあれば、あれから逃れるのは難しくはないさ」
力なくつぶやく私の様子を見て、老駅員は
「不吉なものを少し見てしまっただけだよ。駅を利用するときはしばらく、最前列に並ばないこと。またあれを見ないためにも向かい側のプラットホームを
目を上げて老駅員の顔を見る。いかにも心優しげな笑顔がそこにはあった。目尻には深い
―心からの善人なのだ―
老駅員の
「ありがとうございました。今日はいろいろと迷惑をお掛けしてしまったようで」
一刻も早く、この
「黄色い線の内側に下がって並ぶことを忘れずにな」
最後まで老駅員のお
忠告を守る気にはなれなかった。あの年老いた駅員の述べたところの全てが真実なのだろうことは分かっている。彼が善人で危険に
妻が亡くなってからは
―俺も妻のもとに連れて行ってくれ―
駅員の目を盗んで黄色い線を
(了)
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