傷痕
寒さが
何十年も以前の傷だが、それが刻まれた
忘れもしない、この傷が刻まれたのは八十四年の春の夜のことである。中学三年生を卒業しようとしていた私は親友と一緒に夜の中学校へと忍び込んだ。手に手にバットを
一枚、二枚と私と親友は順調に窓ガラスを割って回った。そのガラス代がどこからやってきているのかなんて気にするほど私達は頭が良くなかった。ただ、あの天才的なロック・シンガーの歌声に従っているだけのつもりだった。自分達に都合の良いワンフレーズだけを抜き出し、彼が何を伝えたいかなどとは理解しようともせず、夢中になって窓ガラスを叩き割っていた。
夢のような反抗の時間は
「すみませんでした。卒業も近かったので浮かれていました」
少年はうつむきながら
体育館の方から生徒達の笑い声が聞こえてくる。今日は「三年生を送る会」の日である。少年は相変わらずうつむきながら、
「もういいから。
私は腕に刻まれた傷をワイシャツで隠すと少年に言った。
「
「先生は甘いですね」
後ろから用務員さんが声をかけてきた。手には箒とちりとりを持ち、
「甘いですよ。もっとちゃんと叱らなきゃ、また
私は一度隠したワイシャツの
「ああ、先生もあの時代の方でしたか。それなら窓ガラスの一枚や二枚はなんともないでしょうな」
用務員さんは
「窓ガラスの一枚や二枚などとは思っていませんよ。今日が
私が腕をさすりながら体育館の方を見やると、ちょうど生徒達の
「彼らももうすぐ卒業です。私達の卒業からは何も得られませんでした。むしろ失ったものの方が大きいくらいです。だからこそ、彼らにはなにかを得た上で卒業して欲しいんです。たとえば友情とかね。私達、大人が水をさしちゃいけないのかもしれません」
「先生は甘いなぁ」
彼は元気にしているのだろうか。あの月明りもけぶるような春の夜に、ボロボロの自転車で
(了)
《参考》
作詞・作曲 尾崎豊 「15の夜 (TGE NIGHT)」
一九八三年一二月
レーベル CBS・ソニ―レコード
(ソニー・ミュージックレコーズ)
規格品番 07SH1433
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