第21話 冒険のはじまり!

偉大なる目標パーティーに必要な手がかりはそろった。

あとはちゃちゃっと、ウネウネヌルヌルした化け物を捕まえて美味しいごはんに仕上げるだけさ。


「居場所は分かったけど遠すぎる。ドムトム領までどうやって行くの?」


リリアが心配そうに言う。

その程度のことを考えてないと思うか?

俺は常に1000手先を呼んで行動している。


「いどうしゅだんなら、もう用意している」


親指と人差し指を加えて鼻から息を吸い込む。

吟遊詩人も目を見張るような腹式呼吸で肺に空気をためこむ。

そして・・・・・・


「ぴゅーーーーーーーーーーーー!」


世界の果てにまで届くような口笛を吹いた。

もちろん、たっぷり魔力をのせてある。


爆音にビックリしたリリアは、驚いてグルグルと目を回してながら耳を抑えている。

ぷぷぷ、間抜けな顔だ。


しばらくすると、羽の羽ばたく大きな音が聞こえてきた。

上空には、赤い鱗を輝かせるレッドドラゴンがいた。



(おお~主よぉ。やっと呼んでくれたか! 待ちわびたぞ!)


(・・・・・・悪いな、俺も中々シリアスな状況に巻き込まれていて、自由にできなかったのだ)


うん、まあ。本当は存在ごと忘れてたんだけど・・・・・・正直に話して傷つけるのは良くない。時には嘘をつくやさしさも必要だ。


ふっ、世界最強なのに相手の気持ちも思いやることができる。

え、待って、俺って完璧すぎない? 

世界一優しいスーパーハードボイルドな幼児と言ってくれ。


「クー! でっかいドラゴンさんが喋った!」


(ぐわっはっはっはー、ちびっこいの。お前も主の下僕か?)


「違う。私はリリア。ルークの友達だよ」


リリアが目を輝かせて、空を羽ばたくドラゴンを見つめる。


「そういえば、リリアにはまだ紹介してなかったね。こちらレッドドラゴンの・・・・・・」


・・・・・・あ、やば。そいえば名前聞いてなかった。

どうしよう?

まあ、どうせ空飛ぶトカゲだしその辺は適当でいいだろ。

ピーちゃんとかどうだ? 呼びやすいし素敵な名前だと思うが。


(主よ、なにかよからぬことを考えてない? 我、背筋が寒いのだけれど)


(ああ、大丈夫。ちょうど今君の名前を考えついらところ)


(名前って・・・・・・我には既にドギュルス・ギュスタブ・ジラジュエリスとい立派な名があるんだが・・・・・・)


なんだその長い名前。

誰が覚えられるんだよ。

馬鹿か?


(めんどくさいし、今後はピーちゃんでよくない)


(ええ!? でも、それだと我の気持ちは・・・・・・)


(いやいや、そんなのどうでもいいよ。呼ぶ側の気持ちも考えてあげなきゃ。今日から君はピーちゃん! よろしくな)


(えええぇぇぇ、この幼児怖いっサイコパスすぎるぅぅぅ)


その後、俺はリリアにピーちゃんを紹介して、一匹のドラゴンと一人の幼女が友達になったとさ。なぜか、ピーちゃんはずっと落ち込んでたけど。




目的地でのドムトム領は遠いが、ピーちゃんの背中に乗っていきけば、割とすぐいけるので、1匹と2匹で向かうことになった。


(しかし主よ、いくら我が翼でも、一日で往復は難しいぞ)


片道5時間、往復で10時間もするらしい。

それに加えて、八本足のヌルヌルウネウネの化け物―――もうめんどうだからヌルウネでいいか。を捕獲する時間もあるから3日くらい必要かもな。


「よし、母上たちには、リリアのいえに泊まりにいくってことにする。リリアはおれのいえにくることにしなよ」


「分かった」


「じゃあ、また後でしゅうごうしよう」


(りょーかいだ!)



―――夜


ピーちゃんにライドした俺達は、夜を駆け抜けていた。


風と共に景色が早送りで後ろへ流れていく。

外套代わりに体に巻き付けた漆黒のタオルケットがパタパタと揺れる。

やはり、このマントがあるだけで気が引き締まる。

最高の相棒といえよう。


「クー、おでかけはいいけど、いつになったら私の修行はじまるの?」


リリアが不満そうな声で言う。


修業か・・・・・・

そろそろ適当な言葉で誤魔化すのも限界か。

いいだろう。この旅の間に、我が愛弟子を鍛えてあげるとしよう。


(ずるいぞリリア! 我も主に鍛えてもらいたいっ!)


仲間外れにされたピーちゃんがテレパシーで叫ぶ。


「いいだろう。ひとりも、ふたりも変わらないからね。でも、リリアがさいしょの弟子だからピーちゃんは2番目ね」


(な、なんだとー! おのれ小娘めぇー!)


「わたしがいちばん!」


さあて、どこから教えればいいだろう?

無限一刀流は、無限の魔力を際限なく使用して敵を打ち倒すゴリ押し剣術だ。だが、それをリリア達に求めるのは酷というもの。


ならば、限られた魔力の使い道を工夫すればいい。


俺は目視できるまで濃密に圧縮された魔力を手に顕現させる。

電撃のように魔力のエネルギーがバチバチと弾ける。


「クー凄い!」


(くくく、何度見ても恐ろしい魔力よ)


「ふたりには、これと同じことが出来るまで、まりょく制御をきたえてもらう」


緩やかな水の流れでも、水路を狭めてやれば勢いは激しくなる。

僅かな魔力でも、最高率で限界まで圧縮すれば破壊の力を得る。

人ひとり、モンスタ一匹倒すのに、星を砕くような膨大な魔力は必要ない。ようは力の使い方だ。


「いきなり練習するのはむずかしいと思う。まずは俺が二人のからだに、まりょくをながすから、かんかくをつかんでほしい」


そういって、ピーちゃんとリリアの背中に触れる。

濃密な魔力を二人に少しづつ流していく。


すると・・・・・・


「うううっ」


リリアが苦しそうに血を吐いた。


(あ、あるじぃ! 我はまだ平気だが幼い人間のリリアには負担がデカすぎる!)


(平気だ。俺は回復魔法も扱える。死にそうになったら治せばいい)


神経を集中させて、リリアが受け止められるギリギリの魔力を流しこんでいく。

だれも好きで大切な幼馴染を傷つけれいる訳ではない。


無限一刀流は、世の理から外れた人外の戦い方だ。

常人がそれを学ぶというなら、修業もまた人の道理から外れたものになってしまう。


「リリア、くるしかったらやめるけど、どうする?」


「ううう、続ける。私は強くなってクーを守るってきめたから・・・・・・」


さすが、あのイカれたジジイの孫だぜ。

リリアが上を目指すなら、俺も幼馴染として最後まで付き合ってやる。

ふふふ、そして、いつか俺の背中が見えるくらまいで強くなれ。そうなったら、とても愉快で楽しそうだ。


(ほら、お前ばかり楽をするなもっと魔力を流すぞ)


ピーちゃんには、リリアの10倍以上の魔力を乱暴に流し込む。


(いぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!)


この旅が終わる頃までには、2人を今の数倍強くしよう。

口にはださずに、俺は旅の新たな目標を胸の内に書き足すのだった。

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