第20話 受付嬢アンの憂鬱


ギルドの受付嬢を担当しているアンは大きな溜息をこぼす。

仕事のやる気が全く出てこない。

ギルドのカウンターに上半身をだらんとのせて愚痴を吐く。


「はあ都会に行きたい。イケメンと結婚したい。もうこんな田舎いやだぁ」


来る日も来る日も、泥臭い冒険者の相手をして疲れてしまう。

優しくて、強くて、カッコいい男と出会えると思ったから、ギルドの受付嬢になったのに、受付に訪れるのはどいつもこいつも盗賊と大差ない下品な男ばかり。


もっと・・・・・・白馬の王子様みたいな人を我がギルドの寄こしてください! お願いします神様ぁぁぁ、とアンは叶いもしない願いを心の中でつぶやく。


「ねえ、ねえおねえさん」


すると、カウンターの下から声が聞こえてくる。

身を乗り出して確認すると、小さな子供が二人立っていた。


「あれ、また来たの。僕ちゃんたち」


その二人は以前、ギルドにきた子供達だった。確か名前は・・・・・・ルークとリリア。とても印象的だったからよく覚えている。何をとち狂ったのか、冒険者になりたいと言ってきたヤバい子達。つい、成り行きで登録手続きをしてしまったが、明らかに幼すぎる―――おそらく王国史上最年少冒険者だろう。


もしこんな子供を登録したことが本部にバレたらクビにされかねない事案だ。

けど・・・・・・どうせこんな田舎だし、べつに誰も調べにこないっしょ。呑気に現実から目を背けたアンは、どうせ暇だし相手をしてあげるかと、子供達に話かける。



「今日はどんな用があってきたのかな?」


男の子のほうが答える。


「おれたち、八本足のいきものをさがしてるんだ」


すると、つづけて女の子も言った。


「見た目がヌルヌルウネウネしてるやつ」


八本足でヌルヌルウネウネ?

なにそれ・・・・・・聞いたこともないんですけど。もしかして猥談?

王都ではそんな大人のオモチャが流行ってるて聞いたことあるけど・・・・・・・いやいやいや、相手は子供だ。そんな筈ないだろ。私は馬鹿か。


「ご、ごめん、そんなモンスター知らなないかな?」


「えーーーーーーー」

「えーーーーーーー」


知らんないと伝えると、子供たちは不満そうに声を張り上げて、バンッ、バンッ、バンッとカウンターを叩いて癇癪を起す。


「あー、わ、わかったからそんなに怒らないで。いま調べてみるから!」


「ほんと!? ありがとうおえねさん!」


男の子がキラキラとして目で見つめてくる。

『くっ、純粋な瞳がまぶしい』と感じたアンは、汚れきった自分と比較して胸が苦しくなった。


その後、急かされるままにギルド内の資料を漁ると、思いの他すぐに同じ特徴のモンスターの資料が見つかった。


「見てみて、多分これだよ。八本足でヌルヌルウネウネしてるし」


資料を見せると、ルークは大喜びする。


「ぜったいコレだよ。八本あし、ヌルヌル、ウネウネ、いわれたとくちょうそのままだ。リリアもみてよ」


「うん、間違いない」


「おねえさん、このモンスターにはどこいけば会えるの?」


「えっと・・・・・・最近王国の西地方にあるドムトム領で目撃情報が数件上がってるわ」


「ありがとう、じゃあそこに行ってみる」


そういうと、ルークはリリアの手を引いてギルドから飛び出していった。


突然やってきて、嵐のように過ぎ去るパワフルな子供二人に、アンはあっけにとられる。


そもそも、ドルトム領はここから500キロ以上離れてるだというのに、2人はどうやっていくつもりなのか。


それに・・・・・・アンは手元の資料に書かれている文字を再確認する。


『特徴。足が八本生えている。体表はヌルヌルとした粘液で覆われており、複数の足を使ってウネウネと動く。 モンスター名「クラーケン」 討伐難易度S』


・・・・・・会いに行くと言ってたが、子供がこんな化け物と遭遇したらひとたまりもないだろう。


「まあ。どうせ会いに行ける訳ないし、別にいっか」


アンはそうぼやいて、またやる気なくカウンターに突っ伏してダラダラと仕事をサボるのだった。

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