第19話 リリアのおじいちゃん
リリアと街の商店街に訪れていた俺は、店に並ぶ商品を眺めて絶望していた。
(なんだよこれ!)
店頭に置かれているのはしなびた大根と、やせ細った魚・・・・・・
一応、肉も置いてあるが色も質も悪くハエがたかっている有様。
粗暴な冒険者なら食べても問題ないが、高貴な我が家族が口にすれば腹を下すことは間違いない。それほど質の悪い肉だった。
「おっちゃん、どういうことだよ!」
店主を名乗る、ハゲで腕毛ボウボウの海坊主みたいな男に掴みかかる。俺がキュートすぎる1歳児のせいで、おあいにくと相手の首元には手が届かなかったから、代わりに拳で海坊主のひざ小僧をバシバシ叩いて抗議する。
まだまだ若い世代の我が両親には、もっと高たんぱくで、高カロリーな栄養たっぷりな食材が必要なのだ!
なのに、何故なにも置いていない!?
もしかして、店のバックヤードにこっそり隠してるとか?
一人だけズルい。俺にも分けてくれ海坊主!
「痛てて・・・・・・んなのいわれてもよぉ。これがウチでは普通だからな」
「これがふつう!? もっと赤くてしんせんなお肉は!? 甘くてみずみずしい果実は!? どうして・・・・・・どうして、なにもないのさ!」
「そりゃオメェー、ここが王国最弱の貧困地域にきまってるからだろ。いいか、ベルモント領にはこんな格言がある。『王都の残飯は我らがご馳走。今日もめげずに頑張りましょう』ってな、あははは」
嘘だろ・・・・・・街全体が貧乏だと分かっていたが、まさか我がベルモント領がここまで底辺だったとは想像してなかった。あと誰だよ。そんな涙もへったくれもない格言を作った奴は。見つけたらぶっ殺してやる!
「はあーこんなんじゃパーティーなんて夢のまた夢だ。リリアどうすればいい?」
「んー、私のおじいちゃんなら解決できるかも。美味しい物が好きで、時々モンスターの肉とってくるぐらいだし」
「そういえば、まえに趣味でモンスターたおしてるっていってたね。いちど聞きにいってみるか」
リリアのじいちゃんか・・・・・・
以前リリアの家に行ったのは誘拐されたのを送り届けた時で、しかも屋根の上だったから誰にも会ってないんだよな。この幼女はしつこいくらい我が家に顔を出すから、こっちから出向く機会はほとんどなかった。
もしかしたらリリアの爺さんが有力な情報を持っているかもしれない。
俺達はいそいでリリアの家に向かった。
◇
「おじいちゃーん」
「おうリリア! 今日は友達をつれてきたんか!」
リリアの家にいくと、庭先に筋骨隆々で白髪のゴツイ男が半裸で薪割りをしていた。
片手でオノを振り下ろして、薪を叩き割っている。
身長も3メートルくらいある。たくましいというか、マッチョというか・・・・・・巨大なホブゴブリンみたいなジジイだった
しなしな爺さんを想像していたのに、想定の100倍タフガイな男が現れて戸惑う。化け物かな? 遠目で見たらモンスターと区別つかない程だ。
イカれた爺さんの名前はイカロスというらしい。
こんな規格外のジジイが何故片田舎の辺境に居るかというと、以前は冒険者として世界を旅してたが、旅先でリリアの婆さんと結婚してこの地に落ち着いたとのこと。
このジジイさんもとんでもないが、コイツを射止めた婆さんも大概だと思う。
とんだはっちゃけ家族だ。そりゃリリアみたいなチンチクチンな幼女が生まれるわけか。
その後、俺達はお互いに軽い挨拶を済ませてさっそく本題に移った。
サプライズパーティーにピッタリの絶品料理を知らないか聞く。
世界を旅していたというだけあって、色んな料理を知っている筈だ。
「おお! それならピッタリな料理があるぞ」
「ほんと!?」
「ああ、あれはたしか、西の大国を旅した時に食べた料理だ。最高だったぞ。外はカリカリ、中はフワッフワで舌がとろけるかと思ったぞ。しかも、大人数でわいわい食べるには最適なんだ。ぜひまた味わいたいものだな」
イカロス爺さんが、目を細めて幸せそうに、そう語る。
外がカリカリで、中がフワフワ!
な、なんだそれ!?
しかも、大人数でたべるとさらに美味いだと!?
そんな素敵な料理がこの世には存在するのか。
想像しただけで、お腹が減ってくる。ぐう~という音が聞こえて振り返れば、リリアが顔を真っ赤にして腹の虫をなかせていた。
音が鳴ったのが恥ずかしいのか、ポンポンを叩いて誤魔化そうとしてる。
ふっ、ヤンチャガールめっ!
そうか、リリアもそれが食べたいんだな。
仕方ない、可愛い幼馴染のためにもこの最強たる俺様が用意してやる!
「イカロスじいさん、そのりょうりはどこで手に入るの?」
「材料さえ集めればワシがつくってやろう。料理の名前は・・・・・・たしかたこ焼きといったかな?」
たこ焼き!
なんて甘美な言葉の響きだろうか!
「しかしなあ・・・・・・メインの食材を仕入れるのが大変で、正直無理だとおもうぞ?」
なに?
このジジイ今さら何言ってやがる。
こっちはなぁ、もうたこ焼きの舌になってるんだ。
あげてから落とすんじゃない!
絶対にあきらめないぞ。どんな手段を使っても必ず手にいれてやる。
「おれはチャレンジする前からあきらめるようなソフトな男じゃない。どんな食材かはやく教えてくれ!」
「おっほっほ、よく言った! その心意気やよし。それでこそ我が孫の幼馴染! ならば教えよう。その食材は・・・・・・いかん、名前をド忘れした。だが特徴なら覚えておる。えーと、たしか足が八本あってヌルヌルウネウネした生き物じゃ」
「あしが八本でヌルヌルウネウネね。すごく分かりやすいせいぶつだ。すぐに見つけれそうじゃん!」
「冒険者ギルドに聞けば詳しい生息地とかもらえるかもしれんぞ?」
「分かったいますぐ聞いてくる。いこうリリア」
「うん」
こうして、俺達は急いで冒険者ギルドに向かって走り出すのだった。
だが、駆けだした瞬間、イカロスの爺さんがポツリとつぶやいた。
「でも生息地って海なんだよな。ここ内陸だぞ? あいつら・・・・・・どこ行くつもりなんだ?」
その言葉は、風にかき消されて俺にはよく聞こえなかった。
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