第22話 ドムトム領冒険者ギルド
ドムトム領の冒険者ギルドは、我らがベルモント領のギルドとは比較にならない程、活気に満ち溢れていた。
「おい、きのうA級冒険者パーティー陽炎が、バーニングベアを討伐したってよ」
「まじか・・・・・・こりゃS級昇級も時間の問題だな」
「俺・・・・・・・今の内にサインもらっておこうかな?」
ギルド内は、大物狩りをした冒険者の話題で持ち切りだった。
ここにいる冒険者たちの表情は明るく意気軒高としている。ウチのギルドにいる死んだ魚の目をした冒険者達とは大違いだ。
やはり金なのか。
金のあるところには、有能な人材があつまる。
ドムトム領は街の規模も大きく、仕事も沢山転がっている。
この街のように、我がベルモント領を発展させるのも一興か。
そのためにも、結局金がいるわけだが・・・・・・
金がないから稼ぎたいのに、稼ぐために金がいるとは矛盾している。はあ、世の中はなんて理不尽なんだ。
世界一可愛い1歳児の俺が困っているというのに、だれも助けてやくれない。どうやらこの世に神はいないらしい。
騒がしい冒険者の人垣を避けて、俺とリリアはギルドの受付カウンターにたどり着く。あ、ちなみにピーちゃんは、街から離れた場所で待機してる。あんなデカい奴がいたら、皆驚いちゃうからね。
「すみません! モンスターのじょうほうをききたいんですけど!」
受付にいたオッサンに声をかける。
「おお、なんだチビ助。おかさんからお使いでもたのまれたんか?」
どいつもコイツも俺とリリアを見るたびに同じような発言をする。
初めてのお使いなんて、俺は生後数か月で終えているのだ!
ブタ伯爵のポークビッツ食わされたいのか?
俺は遺憾の意を込めて、大声で叫ぶ。
「おれと、リリアはぼうけんしゃパーティーだ! 二人でモンスターをたおしにきたの!」
そう言うと、さっきまで別の話題で盛り上がっていた冒険者達が、俺の言葉を聞きつけてドカッと笑い声をあげた。
「かーはっはっは、腹いてぇ。皆聞いたかよ。このガキども二人で、ぱ、ぱ、パーチィくんでるだってさ」
「ぎゃはは、傑作だこりゃ。おいおいどんな依頼をうけるつもりだぁ?」
「俺の膝くらいしかねえチビになにが出来るってんだ。ええ? 川で丸い小石でも探すのかなぼくぅ?」
「う、うるさい! ほんとうにおれたちは、ぼうけんしゃだ! しょうこもある」
俺は証明として冒険者カードを見せる。登録時に発行したやつだ。
「おいおい、こいつらマジで冒険者登録してるぞ!」
「「「ええ!?」」」
先ほどまで馬鹿にしてきた冒険者達がゾロゾロあつまってきて、俺の冒険者カードを確認する。そして、珍妙なものでも見るように俺とリリアを交互に眺める。
「嘘だろ・・・・・・どこの馬鹿だ? こんなガキを登録した奴は」
「きっとろくでもないクズだろうな」
むさ苦しい男達がボソボソと口々につぶやく。
「リリアもなんかいいかえせよ」
「いい、私は慣れたから」
かーっ!
お高くとまりやがって。
いるよね、こういう本当は効いてるのに「私は別にきにしてないですけど?」みたいな奴。
俺達が冒険者として証明されたことで、受付のオッサンが話を聞くなったらしく、口を開いた。
「まったく嘆かわしい・・・・・・こんな子供を登録するギルド員がいるとは。あとで調べて必ず本部に報告しておく。で、お前達はモンスターの情報が聞きたいんだっけ? どんな奴だ?」
俺の代わりにリリアがヌルウネ君の情報を質問する。
「足が八本あって、ヌルヌルウネウネしてるの」
「ヌルヌルウネウネ? ああ、クラーケンのことか? たしかにソイツなら山の奥で目撃情報があるが・・・・・・」
オッサンは俺とリリアを順々に眺めて言う。
「お前らじゃ到底倒すのは無理だぞ。というか、山の中だしそもそもたどり着くことすら不可能だ」
「そんなのたたかってみないとわからないだろ」
頭ごなしに若者の可能性を否定するオッサンに溜息を吐く。
ふん、こんな大人にはなりたかないね。
反面教師の代表例みたいなおっさんだ。
だが、まわりの冒険者もおっさんに賛同するように、「そうだ、そうだ。あんなキモイモンスターやめとけ」「まじキモイよなあれ」「噂ではうんこみたいな臭いらしいぜ」と言う。
「おい! それ以上クラーケンのわるぐちをいうなっ!」
人がこれから食べようとしてるもんにウンコとか、食欲なくなるだろ!
冒険者達を黙らせようと、さらに俺が反論しようとすると・・・・・・
「ク、クラーケンは! キモくなんかありません! あのフォルムがかわいいんです!」
と、横から聞き覚えのない声が聞こえてきた。
全員がその声の持ち主に目をむける。
大きな三角帽子を深くかぶった黒髪の少女が、おどおどとした様子でそこにいた。
両手で杖を持ちプルプル震えながら「はわわわ」と怯えてる。
「クラーケンを・・・・・・ば、馬鹿にするのは許せません! 絶対です!」
・・・・・・いや、あんた誰?
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