最強の1歳冒険者編

第7話 最強の1歳児、冒険者ギルドでいびられる



——それから月日は流れ。


 リリナとの出会いから1年が過ぎた。

俺はハイハイから二本足で堂々と歩けるようになり、声帯も成長して言葉を巧みに操るまで成長した。特に可愛さに関しては日々磨きがかかっており、自分でも恐ろしいと感じるほどだ。


 そんな俺だが、この1年間ずっと悩んでいることがある。

それは……


「クー、今日はなにして遊ぶ? ねえねえ、ねえってば」


 駄々っ子のようにしがみついて俺を揺さぶる幼女、リリナに四六時中付きまとわれていることだ。こいつ、あの日から一日も欠かさず、押しかけ女房のようにやってくる。絶対ちょっと、サイコが入ってるって。


 俺は家計を助けるために就職活動をしたいのに、どこにいてもコイツがいるせいで自由に行動ができない。


これまでリリナの目をどうにか掻い潜ろうとしてきたが、リリナの俺への愛着はすさまじく、もはや離れて行動するには無理があると、ようやく悟った。


 だから、作戦をかえることにした。もうリリナは常に一緒にいるものとして、積極的に懐柔していこう作戦だ。


「りりな」


「なにクー、また騎士ごっこする?」


「ちがう。きょうはね、いきたいところがあるの」


「ふーん、どこ?」


「ははうえと、ちちうえには内緒にしてくれる?」


「うん、いいよ。二人の秘密だね」


 俺はその言葉に頷き、周囲を窺い、誰もいないことを確認して言った。


「りりなと二人でパーティーを組んで、冒険者ぎるどにいこうとおもうけど、ついてくる?」


 俺は家計を助けるため、この幼女と二人でパーティーを組み、最強の冒険者になるつもりだ。


「ふーん、今度は冒険者ごっこね。わかった!」


冒険者ギルドの場所を知っているという、リリナに手をひかれて、ついていく。

リリナは三歳年上だからって、いつもお姉さん気取りだ。


「りりな、よく冒険者ぎるどの場所知っていたね」


「おじいちゃんが、趣味でたまに山でモンスター狩りするから知っているの」


 最強すぎん? リリナのジジイ。

趣味でモンスターって狩るものなの?

そういえばリリナも、騎士ごっこのとき妙に太刀筋がいい。あれは遺伝だったのか。


「ついたよ、ここが冒険者ギルドだよ」


「ふえー」


連れてこられた建物を見上げると、ボロくさい木製の建物だった。


ふふふ、ついにきたぜ。

やっと、就職活動ができる。ここまで長い道のりだった。


父上、母上、待っていて下さい。

いまあなたの息子がモンスター狩りをして、ひと稼ぎしてきます!


 意気揚々と今度は俺がリリナの手を引いて、扉を開けて中に入る。

すると、大勢の視線が俺達に一気に集中した。ギルドの中にはいかにも荒くれ者といった雰囲気の男女が沢山だ。むさ苦しい匂いが部屋に漂っている。


そして、なぜか全員が無言で、俺達をみていた。


あれぇ?

やけにしずかだなぁ、さっきまで扉ごしに笑い声やら雑談する声が聞こえていたのに……まぁ、いいか。


俺は奥の受付カウンターに座る、若い女の人のところまで歩いて声をかける。


「すみません」


「は、はいどうしたのかな僕? 遊びにきたの?」


「ち、ちがいます」


「じゃ、お母さんになにか頼まれたの? はじめてのお使いかな??」


「ちがいます!」


ナメるなよ。

はじめてのお使いなんて、伯爵のポークビッツを切り落とした時に、とうに終えとるわ。


「りりなと、ぱーてぃーを組んだので、冒険者登録をしにきました」


「あー、そう、新人さんね。じゃこちらの書類に記入を、って、えええええええええええぇぇぇぇ!!!??」



女は手に持っていた、書類とペンを落として叫び声をあけだ。


「びっくりした、冗談でしょ!?」


「じょうだんじゃないよ。ぼくたちは、さいきょーの冒険者になってモンスターを狩りにきたの」


「えー、年齢制限はないけど、いくらなんでもねぇ?」



受付の女が戸惑っている様子で固まっていると、さっきまで黙って見てた奴らが、突然大声をだして笑い始めた。


すると、男三人組が近づいてきて、ニヤニヤとした表情で話しかけてくる。


「はははは、こいつぁ最高だぁ。王国史上最弱のパーティーじゃねぇか」


「ちげぇーねえ! 笑わせてくれるぜ!」


「おい、冒険者なら俺たちの依頼うけてくれよ。そうだなぁ、毎朝俺様の尻の穴でも拭いてもらおうか?」


 ガハハハと男達は下品な笑い声をあげる。

俺はそのあまりにもふざけた態度に、プッチンときた。

生物として俺より遥かに劣る、劣等種ごときがなにいってんだ?

ポークビッツ切り落とすぞ!?



「ぼくたちは、さいきょーのぱーてぃーだ、馬鹿にするな!」


「はっはっは、怒ってるぜ、こいつ。お嬢ちゃんもこんな短気な奴より俺らと一緒の方がいいだろ?」


そう言って、ソイツはリリナを後ろから抱きかかえた。


「離して下さい。気持ち悪いです」


「つれないこと言うなよ。おじさんと楽しい、楽しい、あちょびをしましょーねっ」


「あーあ、終わったなこの子。こいつはガチもんのロリコンだぞ」


 リリナが嫌がって、汚い手を振払おうとするけれど、力で負けているせいで離れられない。その光景に俺は全身の血が沸き立つような感覚になった。このままでは、人目が多いのに理性が吹き飛びそうだ。


「お、おい返せ小僧!」


俺は近くのテーブルで、食事をしていたやつから、ステーキナイフを奪い取り、そいつ等に向ける。


「しにたくなければ、りりなを離して、許しをこえ劣等種ども」


「はぁ、何言ってんだコイツ? 死にたくなかったらそのナイフを下げな」



 慈悲で与えた助言を、小汚い男どもは笑って受け流す。

所詮馬鹿に言っても無駄か・・・ならその命をもって償わせてやる。


「死ね」


 俺は殺す気でステーキナイフ振り抜いた。

容赦はしない。魔力を込めた、必殺の威力だ。

間違いなく、男達は冒険者ギルドでその臭いからだを、真っ二つにされる——はずだった。



しかし……


『キイィィン!』と金属がぶつかりあう高い音が鳴ると、俺が振りぬいたナイフは、突然現れたオッサンの剣の鞘で遮られてしまった。


―――コイツ、俺のナイフを止めやがった。


俺は驚き、そのおっさんを見つめると、視線がぶつかり向こうが嬉しそうに笑った。


「お前達、その娘を離してやれ」


「なんだジジイ? みねぇ顔だな」


「通りすがりの冒険者さ。さぁ、早くその子を離せ。さもなくば私がお相手しよう」



オッサンが鞘から剣を引き抜いて威嚇すると、三人組はビビってリリナをおろした。


「りりな、大丈夫?」


「うん、臭かった」


おっさんの気迫にやられた男共は、わかりやすい虚勢を張って、何事もなかったように振舞う。


「ふん、まぁ俺達も遊びが過ぎたな。今日は引き上げるとするべ」

「んだんだ」

「さー仕事にいこか」


と、あっけなく三人組は去っていく。

本当なら地獄まで追っかけて殺してやるところだ。


だが、俺の興味はもうあんな雑魚どもから離れていた。

俺はステーキナイフを止めたおっさんの顔をもう一度みあげる。

人の良さそうな笑顔で、こちらを見つめていた。



俺も思わず笑顔がこぼれてしまう。


ふふふ、こいつ



───強いな。

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