最強の1歳冒険者編
第7話 最強の1歳児、冒険者ギルドでいびられる
◆
——それから月日は流れ。
リリナとの出会いから1年が過ぎた。
俺はハイハイから二本足で堂々と歩けるようになり、声帯も成長して言葉を巧みに操るまで成長した。特に可愛さに関しては日々磨きがかかっており、自分でも恐ろしいと感じるほどだ。
そんな俺だが、この1年間ずっと悩んでいることがある。
それは……
「クー、今日はなにして遊ぶ? ねえねえ、ねえってば」
駄々っ子のようにしがみついて俺を揺さぶる幼女、リリナに四六時中付きまとわれていることだ。こいつ、あの日から一日も欠かさず、押しかけ女房のようにやってくる。絶対ちょっと、サイコが入ってるって。
俺は家計を助けるために就職活動をしたいのに、どこにいてもコイツがいるせいで自由に行動ができない。
これまでリリナの目をどうにか掻い潜ろうとしてきたが、リリナの俺への愛着はすさまじく、もはや離れて行動するには無理があると、ようやく悟った。
だから、作戦をかえることにした。もうリリナは常に一緒にいるものとして、積極的に懐柔していこう作戦だ。
「りりな」
「なにクー、また騎士ごっこする?」
「ちがう。きょうはね、いきたいところがあるの」
「ふーん、どこ?」
「ははうえと、ちちうえには内緒にしてくれる?」
「うん、いいよ。二人の秘密だね」
俺はその言葉に頷き、周囲を窺い、誰もいないことを確認して言った。
「りりなと二人でパーティーを組んで、冒険者ぎるどにいこうとおもうけど、ついてくる?」
俺は家計を助けるため、この幼女と二人でパーティーを組み、最強の冒険者になるつもりだ。
「ふーん、今度は冒険者ごっこね。わかった!」
冒険者ギルドの場所を知っているという、リリナに手をひかれて、ついていく。
リリナは三歳年上だからって、いつもお姉さん気取りだ。
「りりな、よく冒険者ぎるどの場所知っていたね」
「おじいちゃんが、趣味でたまに山でモンスター狩りするから知っているの」
最強すぎん? リリナのジジイ。
趣味でモンスターって狩るものなの?
そういえばリリナも、騎士ごっこのとき妙に太刀筋がいい。あれは遺伝だったのか。
「ついたよ、ここが冒険者ギルドだよ」
「ふえー」
連れてこられた建物を見上げると、ボロくさい木製の建物だった。
ふふふ、ついにきたぜ。
やっと、就職活動ができる。ここまで長い道のりだった。
父上、母上、待っていて下さい。
いまあなたの息子がモンスター狩りをして、ひと稼ぎしてきます!
意気揚々と今度は俺がリリナの手を引いて、扉を開けて中に入る。
すると、大勢の視線が俺達に一気に集中した。ギルドの中にはいかにも荒くれ者といった雰囲気の男女が沢山だ。むさ苦しい匂いが部屋に漂っている。
そして、なぜか全員が無言で、俺達をみていた。
あれぇ?
やけにしずかだなぁ、さっきまで扉ごしに笑い声やら雑談する声が聞こえていたのに……まぁ、いいか。
俺は奥の受付カウンターに座る、若い女の人のところまで歩いて声をかける。
「すみません」
「は、はいどうしたのかな僕? 遊びにきたの?」
「ち、ちがいます」
「じゃ、お母さんになにか頼まれたの? はじめてのお使いかな??」
「ちがいます!」
ナメるなよ。
はじめてのお使いなんて、伯爵のポークビッツを切り落とした時に、とうに終えとるわ。
「りりなと、ぱーてぃーを組んだので、冒険者登録をしにきました」
「あー、そう、新人さんね。じゃこちらの書類に記入を、って、えええええええええええぇぇぇぇ!!!??」
女は手に持っていた、書類とペンを落として叫び声をあけだ。
「びっくりした、冗談でしょ!?」
「じょうだんじゃないよ。ぼくたちは、さいきょーの冒険者になってモンスターを狩りにきたの」
「えー、年齢制限はないけど、いくらなんでもねぇ?」
受付の女が戸惑っている様子で固まっていると、さっきまで黙って見てた奴らが、突然大声をだして笑い始めた。
すると、男三人組が近づいてきて、ニヤニヤとした表情で話しかけてくる。
「はははは、こいつぁ最高だぁ。王国史上最弱のパーティーじゃねぇか」
「ちげぇーねえ! 笑わせてくれるぜ!」
「おい、冒険者なら俺たちの依頼うけてくれよ。そうだなぁ、毎朝俺様の尻の穴でも拭いてもらおうか?」
ガハハハと男達は下品な笑い声をあげる。
俺はそのあまりにもふざけた態度に、プッチンときた。
生物として俺より遥かに劣る、劣等種ごときがなにいってんだ?
ポークビッツ切り落とすぞ!?
「ぼくたちは、さいきょーのぱーてぃーだ、馬鹿にするな!」
「はっはっは、怒ってるぜ、こいつ。お嬢ちゃんもこんな短気な奴より俺らと一緒の方がいいだろ?」
そう言って、ソイツはリリナを後ろから抱きかかえた。
「離して下さい。気持ち悪いです」
「つれないこと言うなよ。おじさんと楽しい、楽しい、あちょびをしましょーねっ」
「あーあ、終わったなこの子。こいつはガチもんのロリコンだぞ」
リリナが嫌がって、汚い手を振払おうとするけれど、力で負けているせいで離れられない。その光景に俺は全身の血が沸き立つような感覚になった。このままでは、人目が多いのに理性が吹き飛びそうだ。
「お、おい返せ小僧!」
俺は近くのテーブルで、食事をしていたやつから、ステーキナイフを奪い取り、そいつ等に向ける。
「しにたくなければ、りりなを離して、許しをこえ劣等種ども」
「はぁ、何言ってんだコイツ? 死にたくなかったらそのナイフを下げな」
慈悲で与えた助言を、小汚い男どもは笑って受け流す。
所詮馬鹿に言っても無駄か・・・ならその命をもって償わせてやる。
「死ね」
俺は殺す気でステーキナイフ振り抜いた。
容赦はしない。魔力を込めた、必殺の威力だ。
間違いなく、男達は冒険者ギルドでその臭いからだを、真っ二つにされる——はずだった。
しかし……
『キイィィン!』と金属がぶつかりあう高い音が鳴ると、俺が振りぬいたナイフは、突然現れたオッサンの剣の鞘で遮られてしまった。
―――コイツ、俺のナイフを止めやがった。
俺は驚き、そのおっさんを見つめると、視線がぶつかり向こうが嬉しそうに笑った。
「お前達、その娘を離してやれ」
「なんだジジイ? みねぇ顔だな」
「通りすがりの冒険者さ。さぁ、早くその子を離せ。さもなくば私がお相手しよう」
オッサンが鞘から剣を引き抜いて威嚇すると、三人組はビビってリリナをおろした。
「りりな、大丈夫?」
「うん、臭かった」
おっさんの気迫にやられた男共は、わかりやすい虚勢を張って、何事もなかったように振舞う。
「ふん、まぁ俺達も遊びが過ぎたな。今日は引き上げるとするべ」
「んだんだ」
「さー仕事にいこか」
と、あっけなく三人組は去っていく。
本当なら地獄まで追っかけて殺してやるところだ。
だが、俺の興味はもうあんな雑魚どもから離れていた。
俺はステーキナイフを止めたおっさんの顔をもう一度みあげる。
人の良さそうな笑顔で、こちらを見つめていた。
俺も思わず笑顔がこぼれてしまう。
ふふふ、こいつ
───強いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます