第6話 エピローグ 年上ヒロインVS最強の赤子。

 あの変態貴族を追い返したあと、ベッドでごろごろ過ごしていたら、いつの間にか、数日がたっていた。


 昨日、両親の会話を聞いたが、どうやらあの伯爵はとても大変な目に合っているみたいだ。領地にいるドラゴンを放置してるせいで、困った領民が怒り狂いデモ活動がをしているらしい。しかも、そんな非常事態なのに、伯爵はそれらを無視して自分にかかった謎の奇病治療のため、優れた医者を最優先で探していると噂がながれてしまった。


それが、火に油を注ぐ結果となり、平民の間では伯爵の首に懸賞金がかけられているとか、ないとか……まあ、自業自得だし、俺には関係としておこう。


 一方、平和を取り戻した我が家は、平常どおり貧乏生活を送っている。

両親が食べるのは、野菜か野草の区別がつかないような山盛りサラダに、硬そうなパン。それと白湯のようなスープ。


 このままではいけない。

俺は死んだこの体の持ち主に、家族を幸せにすると誓ったのだから、そろそろ惰眠をむさぼるスローライフ生活を卒業し、少しでも両親の助けになるため働こうと思う。


 なぁに、たいしたことはないさ。

赤ちゃんという圧倒的なディスアドバンテージを背負っているが、俺は最強だ。働いて稼いだ金を実家にいれて、家族を楽させるように頑張るぞ!


 そう心に誓い、俺は朝のおっぱいを飲んで、家族の目を盗んで家をでた。

昼間の町は初めてだったが恐れることは無い。同年代では最高峰のハイハイをする俺だ。


あっという間に、家の門を抜けて、土で出来た道を暴走天使のように爆進する。

本当はプ二プニした、可愛い尊いこの御御足おみあしで、韋駄天の如く駆け抜けたい気分だけど、赤ちゃんが普通に歩いていたらおかしいからな。


 世間体を気にして、しばらくはハイハイでいくべきだ。

昼間の世界は夜とは違い新鮮だ。太陽の光、草をはむ山羊、畑で労働する見知らぬおっちゃん。


 はじめてのものが多くて、これから仕事探しだというのに、テンションが上がってしまうぜ。すると、俺がハイハイしていると、頭上に影がさす。顔を見上げると、幼い少女が俺を見下ろしていた。緑色の髪と、同じ色の瞳が俺をのぞき込んでいる。


「赤ちゃん一人? なんでこんなところにいるの?」


 幼女はきょろきょろと周囲を見渡し、誰もいないのが分かると俺を抱っこしやがった。


「お母さん、いないね。君はなにをしていたの?」


 「ばびびばぶぶぶばぶぶぶぶぶはなせ、幼女ぉ。こんな場所で足止めされてる場合ではないのだ!」


ジタバタしてみるが一向に離す気配はない。力づくで解くこともできるが、それではケガをさせてしまうかもしれない。


「あっ、泣いちゃった。どうしよ・・・お腹すいたのかな?」


ばぶぶ、ばばぶぶぶちがうっ、はなすのだ!」


「んー、リリナも頑張ればでるのかなぁ」


そういって幼女は俺を小脇に抱えて、上着のボタンを外していく。


は? なにしてんのコイツ?

は? おっぱいだと!?


ふざけるなっ、俺は母上のおっぱいにしか興味はないっ!


え、ちょと、おい、待て!!


(や、やめてくれぇぇぇぇ!!!!)


幼女がグリグリと、俺に貧相なおっぱいを押し付けてくる。


「やっぱりでない。泣き止まないしどうしよ」


諦めて幼女は俺を離した。


ばぶばばばぶた、たすかった


「君はどこの家の子かな・・・あっ、名前書いてある!」


 幼女は俺の涎かけを手にとる。


「ルーク、ベルモント! ベルモントさん家の赤ちゃんか、よし、リリナお姉ちゃんが家まで送ってあげるから任してねっ」


・・・・こうして俺は、仕事さがしの途中で、突然現れた幼女の手によって、我が家に強制送還されることになった。


(くそー、せっかくここまで来たのに。おのれ幼女め)


気持ちはまるで、輸送される犯罪者だ。着々と家に近づいていく。

そこで、俺はとあることが心配になり幼女に深刻な相談する。


ばぶばぶばぶおい、幼女


「なにどうしたの?」


幼女は自分の顔まで俺を持ち上げる。


ばぶばぶばぶばぶばぶ母上には黙っててばぶばぶば?くれないか?|」


「うんうん」


ばぶばぶばぶばぶばぶ外出許可をとってないばぶのだ


「わかった、わかった、しょうがないなぁ~」


ばぶばぶばばぶばぶ?本当にわかってんのか


「じゃいくよ、ばぶばぶばぶばぶばぶばぶばぶぅ!」


真似すんじゃねぇ!!

おい、なにもわかってねーじゃんか!!


誰も変顔してなんて頼んでない、こっちは真剣なんだよっ

でもちょっと面白いな。


「ばっぶばっぶばー」


「あ、笑った」


くっ、くそ、小癪な奴め。純真な赤子の心を撃ち抜くのは得意ってわけか。

いいだろう、受けて立ってやる。俺をそこらの赤子と同じにしてもらっちゃ困るぜ?


ばぶばぶばぶばぶばぶもういっかいやって


「ええーしかたないな。いくよ? ばぶばぶばぶばぶばぶーぅ」


「ばっ・・・ばっぶ・・・ばっぶばっぶばばぶーーー!!」


「めっちゃ笑うの我慢してる」


 ふっ、ふっふーぅ、お。恐ろしい幼女だ。

かつてここまで、変顔がうまい奴がいただろうか?

父上の百倍は面白いぞ。


「ふふ、ヘンなの。自分の顔のモノマネで笑うなんて」


ぼっぶばぶば!?ぶっ殺すぞ!?


誰が面白い顔じゃ!

この最高にキュートな丸い顔が、そんなへんてこりんなわけないだろ!?


くそぉ、完全にペースを持ってかれている。最強の存在が、こんなところで躓くなんて誰が想像できようか。


そうこうしている内に、いつの間にか家の前まできてしまった。

俺は最後にもう一度だけ念を押しておく。


ばぶばぶたのむよばぶばぶばぶばぶ?絶対にバラすなよ?


「はいはい」


幼女が愛しの我が家に立ち入り呼び鈴を鳴らす。


「ごめんくださーい、向こうの道でハイハイしてた赤ちゃんを拾いました」


ばぶっおいっばっばぶばぶばばぶぶばっバラすんじゃねよ早すぎるだろ!」


なんて奴だ、約束の意味も知らないのか!

俺が恨みがましく幼女をにらんでやると、 がちゃ、と扉が開き、家の中から母上がでてきた。


「あらリリナちゃん、いらっしゃい。ん? どうしてクーちゃんも一緒にいるの?」


「向こうの道でハイハイしてたの拾いました」


「えっ、本当に!? ありがとうリリナちゃん。もー、クーちゃん、勝手にお家をでたら、めっ、ですよ」


「ばぶぅ」

 

 はじめて母上に怒られてしまう。

うう、ただ働いてみんなの生活を楽にしようとしただけなのに。

腹いせにジロリと幼女を睨むと、あろうことか変顔で待機してやがった。


「ばっ、ばっぶばっぶ!」 


「あら、クーちゃん凄いよろこんでいる。きっとリリナちゃんが大好きなのね」


「え、わたし?」


「普段はこんなに笑わないもの。そうだ、リリナちゃん、よかったら時々クーちゃんと遊んでくれる? 私も夫も忙しくてあまりこの子に構ってあげられなくて」


「いいですよ」


ええ!? 


母上なんてことを!

勘違いです。ルークめは幼女を好いておりません!

こいつは危険です。考えなおして!


「ばぶばぶ」


「ほら、クーちゃんもそうして欲しいって」


「そっか、じゃリリナ毎日くるね、クーちゃん」


そういって幼女は俺の頭をよちよちして帰っていった。




馬鹿な、毎・・・日・・・だと?


俺の就職活動は? 

どうしよう。




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