第3話 転生はバレない

 村には暗躍した異世界転生者が火炙りにされた記念碑が設置されている。


 しかしその記念碑はかなり古い。500年は前のもの。


 記録によると最後の異世界転生者裁判は56年前。学校の教科書を読み返すと、異世界転生者は自ら異世界転生者だと名乗ったとある。やはり調子に乗って無双したバカが自分は異世界転生者だと名乗ったのだ。もうバカバカ。

 その異世界転生者裁判では、被告が魔法で記憶を覗かれる。そして、異世界転生者であることが証明されると有罪になり火炙りの刑にされたとある。


 記憶を覗く魔法。


 とんでもなく恐ろしい魔法があるもんだ。

 こんな世界ではオタ活は絶対にできない。オタクの記憶が覗かれた日には恥ずかしくて死ぬしかない。近年ではプライバシーの概念から誰かれ構わず記憶を覗くことは無くなったと記されている。近代化の波は異世界まで届いていた。素晴らしい天才。プライバシー保護政策万歳!


 そう、記憶を覗かれない限りは安全。


 って言うか、魔法が使える世界って最高! 転生者と目覚めるまえに読んだ学校の教科書を漁っていると、魔法学の教科書も出てきた。


 転生者と気付いてから、私の魔法への関心の度合いは変わった。こっちの世界で転生者と知らずに、のほほ~んと育っていた頃は、魔法なんてただの学校の教科だったけれど、今は違う。夢の世界の技術。この世界では誰でも魔法を使えるのだ。最高じゃない!

 はああああ~、今までなんて愚かだったんだろう。学校の宿題もあんなに頑張っていたのに、その重要性に全く気付いてなかった。


 魔法を改めて学ぼう。


 魔法の教科書はこう始まる。


 《祈りは原始的な魔法。神話の前のもっと古い過去に、人は強く願うことで奇跡を起こした。魔力の籠った”祈り”が古代の神に届き、火がもたらされた。それが魔力を使った最初の人類。それが魔法の始まりだった。》


 原始の魔法とは、人々が祈り、それを見た神が代行して呪文を作り、魔法を起こしていた。と、言うことだそうだ。それから数万年の時を経て、人間は神が使っていた呪文を解読する。


 うむ~ぅ、この世界の歴史は前世とは比べ物にならないほどに長い。ファンタジックだし、やばいぐらいにオタク心をくすぐられる。


 古代の魔法研究者は、呪文のことを自然を操る式だと解き明かした。その式は自然魔法によって起動される。その際に必要なエネルギーを魔力と言う。魔力は願いに似たもので、強く念じることにより発生する。自然魔法の元で呪文と魔力が揃えばそれが魔法になるのだ。


 転生者として目覚めた私は、過去に習った魔法の起源を改めて読み直して心が躍った。


 これってつまり、プログラミング言語とプログラミングと電力の関係じゃない?


 自然魔法=プログラミング言語

 呪文=プログラミング

 魔力=電力


 こう考えるととっても理解が早かった。もっとも私だけかもしれない。そう、何を隠そう、私の前世は大手家電メーカーの研究職。IoT(モノのインターネット)家電、スマート家電なんかを作っていた。プログラミングもお手のもの。とっても頭のいい女の子なのだ! てへっ。


 前世の記憶とこの世界の記憶が融合して、私の頭脳は最強である。

 そして、私は悟りの境地に来た。この世界の魔法とは前世のプログラミングと似ているという事。


 呪文はプログラミングと同じ作業。


 身の回りのモノに呪文と言うプログラミングを書き込んで意のままに操る技術、それが魔法。

 前世の私は商品開発でプログラミングを10年近くやってきたのだ。複雑な魔法の呪文であってもプログラミングの要領で作っていける。変数、関数、条件分岐、演算子、プログラミングの知識が完全に呪文作成の応用可能だ。もう明日からでも魔法使いになれるぐらいの全能感に浸ってしまった。


 私が、この私が魔法使いに!


 毎日が急に楽しくなった。転生者と自覚してから5日目にはすっかり元に戻り、いやそれ以上に元気に明るい性格になっていた。


 魔法に興味を持ち始めてからは、朝から夕方まで家業のベーカリーの手伝いをして、夜は魔法の勉強。

 呪文の構築については理解したが、魔法のエネルギーとなる魔力を強化するには日々の鍛練が必要だった。しかし。さすがは転生者。幸運なことに両親は魔力の高いDNAをもっていて、私もそれを受け継いでいた。魔力はみるみるうちに増していった。


「じゃあ明日のお見合いも予定通りやってくれるのね」

「へ?」


 忘れていた。


 巧妙に仕組まれたお見合いは、私の人生をどん底に突き落とした。

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