第4話 お見合い
この世界の魔法は多彩で本当に美しい。
今日の天気は雨なのだけれど、この一角は雨雲が裂けて太陽の光が後光の様に降り注ぐ。その明かりに照らされる緑あふれるイングリッシュガーデン。そして、色とりどりの花々が美の方程式で敷き詰められロマンティックな光景を作り出している。これはすべて魔法のなせる業。
インスタ女子なら絶対に写真を撮りまくるであろう。
そう、今日はお見合いの日。私はお母さんに最高のおめかしをされ。庭の中央の小さなベンチに座らされ、案の定、写真をたくさん撮られている。
若くてきれいなキラキラ女子の私は、100%の作り笑顔でこの場をやり過ごそうとしていた。
私の知らないところでお見合いの話が進み、私の抵抗は効果なし。
私はこれを回避できなかったのか……
〇 〇 〇
昨日はお父さんとお母さんとバカみたいな喧嘩があった。
「これはチャンスなんだ。頼む! 父さんの願いを聞いてくれ」
「そんなの勝手すぎる!」
「相手は大金持ちなのだから、間違いなくにあなたは幸せになれるの、お母さんはあなたのことを思って」
「幸せってお金なの!?」
「この結婚はアンヌのためだけじゃない!」
「いや、むしろ100%家のためじゃない?」
「結婚してくれるなら何でも言うことを聞く」
「じゃあ結婚するから離婚させて!」
「なんてことを言うんだ!」
「何なのふたりそろってわがまますぎる! 自分たちはどうなの? お母さんとお父さんはどうして結婚したの?」
「私たちは、なぁ……」
「うん、お見合い結婚だったのよね……」
「聞いた相手が間違っていた!」
この世界は魔法は素晴らしいけど文化は、前世の方が良かったかもしれない。
〇 〇 〇
庭の入り口の方で、タイヤが砂利の上を走る音がした。
異世界の装飾にデコられた煌びやかで豪華な車が庭園の入り口に停車すると、召使の男が現れて車の扉を引いた。車内から黒光りする革靴が下りてきて庭石を踏みつけた。
丸々とした体がよくこの車に入っていたなと感心する。いかにもな中年太りの中年おっさんが姿を現した。紹介の手紙にも書かれていたが相手は童貞の40歳。前世の私より年上ってどんななの。
豚にも衣装。この世界だとそんな言葉があるかもしれない。正装をしている分キモさが軽減されて、まだ見ることができる状態。
こちらにやってくる男に対し作り笑顔をキープしながら、私はお辞儀をした。
相手もお辞儀をしニッコリと笑顔を返した。私に寒気が届いた。
男が歩み寄ってくると同時に何かをしゃべっているようだったが、神経がやられて何も聞こえてこなかった。
加齢臭と得も言われない香水なようなものが混ざった匂いをかがされて、吐き気がしてきた。
もう生理的に受け付けなくて、口を押さえて、気づいたら走っていた。
転生した世界がこんなにも辛いなんて。
人生は、2回目の方がうまく行く。
転生者の人生はこれからも続いて、ハッピーエンドがきっと待っている。
そんなことはないのかもしれない。
こんな転生人生は嫌だ。
政略結婚を強制された身体は16歳、心は30代のおばさんは、生まれて初めての家出を選んだのだった。
庭を抜けると、晴れていた天気は雨に変わった。
綺麗にセットされた髪の毛は乱れてボサボサになった。
メイクが雨で滲んだ。
綺麗なドレスも雨でびしょぬれになった。
靴は走りやすいものではなかった。
それでも走ることを辞めなかった。
かろうじて持っていたショルダーポーチの中にへそくりの小遣いが入っていた。
小さな村の中で一際は目立つ高台の施設。飛空艇乗り場。
私は片道チケットを購入して、長距離飛空艇に飛び乗った。
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