第49話 本当に好きなこと

「それじゃあ、さっそく今日の作戦だが…」


「ちょっと待てーい!!」


「えっ…?」


「あなた昨日血を吐いて死にかけたんですよ!!」


「それに… ビル先生から激しい運動は絶対にダメって言われたんじゃないんですか!?」


「……」


「ふっ… 流石ヤブ医者…」


「嘘をつくのが上手いわ!!」


「!?」


「見ろ!! 太郎!!」


「わしはこうやって…」


 泰山はその場でスクワットを始めた。 しかし、2~3回で息切れをし、スクワットを辞めた。


「ハァ… ハァ…」


「なっ… この通…」



「ふざけないでください!!!!」



 マックスは、泰山に強い口調で怒った。


「あなたは末期ガンなんですよ!! 今生きているのが奇跡なんです!!」


「それなのに、自分の命を削る行為をして…」


「相撲なんてやめましょうよ…」


「ほんとに死んじゃいますよ…」


 しまった…。つい口を滑らせて…。



「……」


「ふっ… 流石…」


「ヤブ医者…」


「あいつ… 病気のことわしに言わなかったなー…」


「まぁ… なんとなくは気づいていたさ…」


「ちょうどいいハンデだ…」


「今日は勝つ!!」


「八ッ八ッハ!!!!」



「もう知らない!!!!」



 マックスは、扉を力強く締め、部屋を出ていった。


「ダメだ… あの人に何を言っても無駄だ…」


「そうだ!! ビル先生に言えば…」


 マックスはビル医師が診察している部屋に行った。


「ビル先生…」


「おっ!! どうしたスティーブ!!」


「休憩にはまだ、早いぞ!!」


「先生!! 聞いてください!!」


「!?」


 マックスは泰山に相撲を辞めさせるようにビル医師に話した。


「ほぉー じいさんらしいな…」


「わかった… 伝えておくよ…」


「ふぅ… よかった…」


「すみません… 仕事に戻ります…」


 マックスは部屋を後にした。


「……」


「気合い入れなきゃな…」



 ー17時ー


 キーーン!! コーーン!! カーーン!! コーーン!!



「さて… 行くか…」


「よし… ストレッチ終了…」


 ビル医師、泰山は屋上に向かって行った。


「あれっ… ビル先生…」


「階段を上って、どこ行くんだろ…?」


「……」


「まさかね…」


 マックスは、ビル医師をこっそり付けた。


 ギーーッ……


「……」


「来たか… ヤブ医者…」


「ゲホッ…」


「じいさん… 死にそうじゃないか…」


「ほんとにやるのか…?」


「もちろん…」



「うそでしょ… 先生、言ってなかったの…?」



「……」


「まぁいい… 止めても無駄だろうからな…」


「さっさと始めるか…」


「その前に…」



「スティーブ!!」



「!?」



「隠れてないで出てきなさい!!」



「……」


「先生… どうして…」



「おい!! ヤブ医者!!」


「準備万端だ、さっさと始めるぞ!!」


「それに太郎!! 見てないで、行司しろ!!」


「……」


「やだよ…」


「泰山さん… 死ぬかもしれないんだよ…」


「それなのに… 怖くないの…?」


「……」


「ふっ… “鬼殺し”がただの病気に怖がってちゃお笑いもんだぜ!!」


「いいか… 太郎…」


「わしが一番怖いのは…」



…」



「それ以外は何も怖くない…」


「ゲホッ… ゲホッ…」



「だそうだ…」


「じゃあ始めるぞ、俺にも仕事があるんだ…」


「おうよ…」


「じゃあ太郎、相撲を始めるから…」


「僕はやらない…」


「ここで見てるよ…」


「……」


「ったくしょうがねぇなぁ…」


 泰山とビル医師は屋上に作られた直径約5メートルの土俵に入り、地面に拳をつけ互いに目を合わせた。


「じゃあ… 俺が言う…」



「はっけよーい…」



「のこった!!!!」



 バン!!!!



 ビル医師と泰山は勢いよく組み合った。


「……」


 やっぱり、じいさんには悪いが、最後のはなむけとして…


 ビル医師は、少しずつ、土俵の外へ後ずさりをした。


「おい…」


「ハァ… ハァ…」


「ヤブ医者…」


「くだらないことすんじゃねぇぞ…」


「わざと負けて見ろ…」



「末代まで呪ってやる!!」



 泰山は少し微笑んだ。



「……」


「そうだな…」


 ビル医師は泰山を押し、2人はまた、土俵の中央に戻った。


「じいさん悪かった…」


「もう変なことは考えないよ…」


「へっ… そう来なくちゃな…」



 ……


 僕には、全く理解が出来ない…


 どうして、泰山さんは死にそうなのに、あんなに相撲をしたがるんだ?


 それに、ビル先生、何で運動は絶対にダメって言ったのに相撲を受けたんだ?



「さて、じいさん… 悪いが終わりにしよう…」


 ビル医師は泰山の胸を両手で当てた。 さらに、ビル医師は両手に力を加え、押し出しの体勢をとった。


「!?」


「何っ… ビクともしない!?」


「ハァ… ハァ…」


「おい… ヤブ医者…」


「こんな老いぼれの余興に付き合ってくれてありがとうな…」


「そして…」



「サヨナラだ…」



 泰山はビル医師の片腕を両手でつかみ、肩に担いで、土俵の外に投げ飛ばした。



 バン!!!!



 ビル医師は、屋上の床に叩きつけられた。


「……」


「しっ… 信じられん…」


「ハァ… ハァ…」


 バタン…


 泰山は仰向けに大の字になって倒れた。


「はっ… ハハハ…」


「やった!! やったぞ!!」


「はぁ… 楽しかった…」



「ありがとうな… 先生…」



 泰山は微笑みながら、その場でゆっくり目を閉じ、静かに息を引き取った。


 第49話 FIN

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