第48話 相撲

 ー病院の屋上ー


「あのー……」


「僕たちしかいないんですけど…」


「一体誰と相撲を取るんですか…?」


「まぁ… 待ちな太郎…」



 ギーーッ……



「来たな…」


「あっ!! 筋肉がすごいお医者さん!!」



「はぁ… じいさん…」


「もうやめないか…」


「何回やっても、決着は一緒だって…」


「寿命縮むよ…」



「うるさい!! ヤブ医者!!」


「わしはピンピンしとるわ!!」


「それか、あれか…?」


「わしに負けるのが怖いのか!?」


「……」


「ハァ… わかったよ…」



 老人と医者は屋上に作られた直径約5メートルの土俵に入り、地面に拳をつけ互いに目を合わせた。



「よし!! 太郎!!」


「行司を頼む!!」



「はい… はい…」



「それじゃあ… 見合って… 見合って…」


「はっけよーい…」



「のこった!!!!」



 バン!!!!



 老人と医者は互いに組み合った。


「ん… ぐぅぅ…」


「はぁ…」


 医者は、老人の片腕を両手でつかみ、肩に担いで、前に投げ飛ばした。



 バン!!!!



 老人は勢いよく床に叩きつけられた。



「……」


「まっ… 負けた…」


「ハァ… それじゃあ… 仕事に戻るよ…」



 医者は、診察室へと戻っていった。



「ハッハッハ!! 流石わしのライバル!!」


「こうでなくっちゃ!!」



 負けたのに喜んでる…



「よし!! 太郎!!」


「部屋に戻って、明日の作戦会議だ!!」


「えーーっ!!」



 老人の、風呂時間まで作戦会議は続いた。 マックスは、束の間の休息をとるために、休憩所に移動した。


「ハァーー……」


「疲れたなぁーー……」


「一体あの人は何なんだ…?」



 シャーーッ……


「!?」


「筋肉ドクター!!」


「おっ… お疲れ様です!!」


「おいおい!! 筋肉ドクターはやめてくれよ!!(といいつつ少しポーズ)」


「一応“ビル”って名前があるんだから!!」


「そういえば… スティーブ!!」


「じいさんが呼んでたぞ!!」


「えーーーーっ……」


 マックスは机に顔を伏せた。


「あのおじいさんはいったい何者なんですか…?」


「お世話が大変なんですけど…」


「……」


「あの人は、つい3年ぐらい前に、体調不良でこの病院にやって来た…」



泰山たいざんって名前の今年83歳のじいさんだ」



「なんでも昔、戦争で数々の功績を上げてたらしい(本当かどうかわからないけど)」


「大の相撲好きで、ここに来てから毎日17時、俺に相撲を挑んでくるんだ(1回も負けたことないけど)」


「へーーっ…」


「でも… あんなに元気だったら… もう退院しても…」


「……」



「おーーい!! 太郎や――い!!」



「はぁ… 行くか…」


「それじゃあ…」


 マックスは重い足取りで、休憩所を出ていった。



「……」


「退院か…」


「できることなら、させてあげたいんだけどな…」



 ー701号室ー


「いいか… 太郎…」


「俺は昔、“鬼殺しおにごろし”って恐れられてたんだ…」


「へ――っ…」


 マックスはウトウトしながら、泰山の話を聞いていた。


「いやー… あの頃はどの戦場でも、活躍してたからなぁ…」


「そりゃ… 当然か!!」


「……」


「あのー… もう23時なので、寝ませんか?」


「何を言っとるんじゃ!!」


「話はこれからじゃぞ!!」


 えーーっ……


「それじゃあ、わしがモテモテだった…」


「……」


「すまんが… 太郎出て行ってくれ…」


「えっ…?」



「いいから早く出てけ!!」



 マックスは、泰山のすごい剣幕に驚き、701号室から飛び出した。


「いっ… 一体どうしたんだ!?」



「ハァ… ハァ…」



 泰山は苦しみ出し、心臓を抑えだした。


「ゲホッ!!」


 マックスは恐る恐る部屋の中を覗いた。


「どうしたんですか!?」


「!!」


「大変だ!!」


 泰山は、心臓を抑えたまま、体を丸めた状態で気を失っており、ベットは血だらけになっていた。


 その後、マックスはナースコールを鳴らし、泰山は集中治療室に移された。


「……」


「あっ!! ビル先生!!」


「泰山さんはどうなったんですか?」


「あー… 何とか一命は取り留めた、という感じだ…」


「けれど… 正直、あと何日持つかわからない…」


「そっ… そんな…」


「あんなに元気だったのに…」


「……」


「スティーブ… 本当は…」


「じいさんはただの体調不良ではないんだ…」


「えっ…?」



「末期ガン……」



「あの人は3年間ずっと、病と闘ってきたんだ…」


「……」


「そのことを泰山さんは知ってるんですか…?」


「いいや…」


「言ったら、絶望してしまうと思ってな…」


「……」


「そうですか…」


「スティーブ… 明日も早いから…」


「今日はもう寝な…」


「はい…」


 マックスは、その夜、死んだように眠った。



 ー翌朝7:00ー


「……」


「もう朝か…」


 マックスは身支度を済ませると、患者の配給に向かった。



「701号室」


「後はここだけなんだけど…」


 マックスはドアを開けた。


「すみません…」


「おぅ… 太郎か…」


 ベットの上には、昨日までとは打って変わって、物静かな泰山が窓の外を眺めていた。


「朝食の時間です…」


「ふっ… わしは自分の食べたいもんしか食わんぞ…」


 剛司は煙草を吸いだした。


「ふぅ……」


「そういえば、ビル先生から何か言われましたか…?」


「あのヤブ医者か…」


「ここ数日、健康的な食事と激しい運動は絶対にダメだってよ…」


「笑わせるぜ…」


「きっと… 今日の相撲で負けるのが怖いんだあいつは…」


「今日の相撲で負けるのが怖い…?」


「まさか…」



!?」



「ふっ… 当たり前だろ…」


 第48話 FIN

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