第47話 701号室の住人

 カラベスを出発して、歩くこと2日。


 隣町が見えてきたところだった。



「はぁ… 疲れた…」


「やっと、着きそうだねシン…」


「……」


「とりあえず、町に着いたら宿を探して、今日はゆっくり休もう…」


「……」


「って聞いてる!?」


「あー…」



 バタン!!!!


 シンは、急にうつ伏せで倒れた。


「シッ… シン!!」


「大丈夫!?」


「ハァ… ハァ…」


 シンは、ゆっくりと目を閉じ、意識を失った。




 マックスは、倒れたシンを背負って、町の病院に担ぎ込んだ。



「多分、日頃の疲れが溜まってたんだろ…」


「まぁ… 2、3日は安静にしてな…」


「ふぅ… 何ともなくてよかったよ(というか、このお医者さん筋肉すごいな…)」


「それじゃあ… 僕は宿泊先を探すので、シンをよろしくお願いします…」


「わかった…」


「それじゃあ…」


 マックスが席を立ち、部屋から出ようとしたとき。


「ちょっと待て!!」


「まだ、診察代と入院代の見積もりが終わってないぞ!!」


「……」


「えっ…」


 医者は引き出しから電卓を取り出し、計算を始めた。


「よし… 診察代、入院代合わせて…」



「2万ドールってところだな…」


「……」


 マックスは財布の中身を確認した。


 残金4000ドール


「あっ… 彼の治療は大丈夫です…」


「……」


「まさかお前ら… 金がないのか!?」


「はい… そうです…」


「困ったなぁ、もう入院の手配しちまったぞ…」


「……」


「そうだ!!」


「あいつが入院している間、お前ここで働け!!」


「そうすれば、無料にしてやる!!」


「ほっ… 本当ですか!!」


「やります!! やらせてください!!!!」



「えーーっ…」


「今日から3日間、私たちナースと一緒に働いてもらう、マック・スティーブ君です…」


「スティーブです、よろしくお願いします…」


「スティーブ君には、朝昼晩、患者さんの食事関係のこと、施設の掃除を担当してもらいます。」


「あっ… あと… 特別に701号室の個室で過ごされている方のお世話もお願いする予定です…」



「!?」


 話を聞いていたナースたちは、一斉にひそひそ話を始めた。


「701号室ってあの問題児の…?」


「あの子、可哀想に…」


 えっ… 何この雰囲気…


「はい!! 皆さん!! お静かに!!」


「それでは、スティーブ君…」


「701号室のこと以外はなんでも聞いてください」


「はっ… はぁ…」



 こうして、マックスの病院勤務が始まった。


 マックスは、熱心に仕事をこなしていたのだが…



「うーーん… あのーすみません…」


「どうしたの!?」


「さっき701号室の方に昼食の配給に行ったんですけど…」


「何ですか… あの部屋…」


「ドアの前に、大量の張り紙があって…」


「その1つに、“食べるものは、わしが注文したものしか受け付けない”って書いてあったんで、持って帰って来たんですよね…」


「……」


「スティーブ君…」


「あの部屋に住んでいる人は特別なの…」



 ブーー!! ブーー!!



 701号室のナースコールが鳴った。


「あっ… 噂をすれば…」


「スティーブ君… 今すぐ701号室へ行ってちょうだい!!」



 マックスはわけもわからぬまま、701号室へ行った。


「……」


「なんかすごく足取りが重たいんだけど…」


「一体、どんな人がいるんだろ…」



 ガラガラ……


 マックスは、ドアを開け、中へ入ろうとした。


「一体どうされ…」



 ゲホッ!! ゲホッ!!



「おい!! 遅いじゃねぇか!!」


「俺は腹が減った!! 特上寿司3人前早く持ってこい!!」



 部屋の中には、頬杖をついた老人が、タバコを吸いながらベットの上に胡坐あぐらをかいて座っていた。


「ちょっ… ちょっと待って…」



 ゲホッ!!



「ん!? よく見れば…」


「お前見ない顔だな、新人か!?」


「はい… マック・スティーブと言います…」


「ほう… なんか横文字が多くて面倒だな…」


「よし!! 今日からお前の名は…」



だ!!!!」



「……」


 えっ… 何故に…


「では… 早速だが太郎…」


「さっきも言ったと思うが… 早急に特上寿司3人前を持ってこい!!」


「特上寿司3人前って…」


「そんな、1人の患者を特別扱いするわけにはいきません!!」


「……」



 うっ… ぐあっ…



 老人は、苦しそうに自分の心臓を抑えだした。


「だっ… 大丈夫ですか!?」


「ハァ… ハァ…」


「太郎、お前は… 老い先短い、じじいの頼み事も聞いてくれないのか…?」


「もし、寿司が食えずに死んだら…」



「一生お前を呪ってやる…」



「ひっ… ひーーっ!!」



「行ってきまーーす!!」


 マックスは部屋を飛び出し、大急ぎで、寿司屋に向かって行った。



 ー数分後ー


「買って来ました…」


「おっ!! やっと来たか!!」


「どれどれ…」


 老人はマックスから、寿司が入っている容器を取り上げ、手づかみで食べ始めた。


「うん!! うまい!!」


「あのーー… 代金は…」


「んなもん、病院に付けとけ!!」


「はっ… はぁ…」



 老人は寿司を食べ終わると、タバコを吸い始めた。


「ふぅ……」


「当院は全室禁煙なんですけど…」


「いいんだよ… 全席禁煙だけど、ここは俺の部屋だから…」


「あー… そうですか…(面倒くさいな…)」


「それじゃあ、僕は仕事があるので…」


 マックスが部屋を出ようとしたとき。


「おい!! 太郎!!」


「ちょっと、付き合え!!」


「すみません… やることがいっぱい…」


「ぐぁーーっ……」


「わっ… わかりました!!」



 マックスは部屋に戻ると、老人は自分の武勇伝を延々と語りだした。



「いいか… 太郎…」


「何ですか…」


「モテるってのは罪なんだぜ…」


「そうなんですね…」


「俺が若い時はな…」



 キーーン!! コーーン!! カーーン!! コーーン!!



「ん!? もう17時か!!」


 老人は、座っていたベットから降りてその場でストレッチを始めた。


「えっ… どうしたんですか!?」


「ふっ… 太郎…」


「今から、俺の勇姿を見せてやる!!」


「屋上に行くぞ!!」


「屋上にって… 一体何を!?」


「何って…」



だよ…」



 第47話 FIN

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