第45話 カラベス

「残り、1分30秒くらいか…」


「何とか、タイミングを見計らって…」


 シンは武勇に向かって行った。


「ハァ… ハァ…」


 シンは、大きく振りかぶり、武勇に殴りかかった。


「ふっ… そんな、大振りで…」


「隙だらけなんだよ!!」



 武勇は、シンの攻撃の隙をつき、パンチを繰り出した。



 シンは、武勇の頬を、武勇はシンのみぞおちに拳を当てた。



「ぐあっ…」


 シンは、その場で、腹を抱えて、立ち止まった。


「ハァ… ハァ…」


「まだだ…」



 まだ倒れないとは、なんてタフな奴なんだ…


 俺の方は、立っているのがやっとだぞ…



 残り1分


「ハァ… ハァ…」



 武勇よ… これで、終わりにする…



 シンは、拳を構え、武勇に向かって行った。



「あいつ、そろそろ、最後の攻めに来たか…」


「いいだろう…」



「受けて立ってやる!!!!」



 シンと武勇は、上体(右肩)を後ろに引き、腰を回転させた。



「くらえ!!!!」 「終わりだ!!!!」



 シンと武勇はお互いに、渾身の右フックを繰りだした。


 ぐっ…


 うっ腕が…



 パスッ!!



 シンの渾身の右フックは、武勇の頬に直撃した。 武勇はパンチの途中で、腕の痛みによりパンチが減速し、ほぼ威力の無い、一撃がシンの頬に当たった。



 くそっ… こんな時に…


 もう右腕が使えな…



 バタン!!!!



「!?」


 シンは仰向けになって倒れた。


「おおーー!! シン選手ダウンか!!」


「それでは、カウント始めます!!」


「10!!」


「9!!」


「8!!」


「7!!」



「おい!! 立ち上がれ!!」


「おかしいだろ!! あんな、力の入ってない一撃で倒れるわけないだろ!!」


「……」



「6!!」


「5!!」



「聞いてるのか!!」



「4!!」


「3!!」



「こんなの決着の仕方ないだろ!!」



「2!!」


「1…」



 カン!! カン!! カーン!!!!



「試合終了です!!」



「勝者…」



!!」



「では… 武勇選手、インタビューを…」


「……」


 武勇は何も語らぬまま、リングを降り、バイクで去っていった。



 その後、シンは何事もなかったかのように立ち上がり、決闘は幕を閉じた。



 ー数日後ー


 フランツ孤児院でシンとマックスのお別れ会が開かれた。


 ぐすっ…


「ジンざん… マッグズざん…」


「本当にいっぢゃうんでずが…?」


「しっ… シスター…」


「何もそんなに泣かなくても…」



「ぞうだよ… もうずごじ… ごごにいでよ…」



 シスターにつられて、子供達も泣き出した。


「まぁ… まぁ… またタイミングがあったら帰ってくるから…」



 ぐずっ…


「がえっでくぐるっでいっだいいづ(帰ってくるっていったいいつ?)!?」



お前ら漢組もかよ!!!!」



「ったく… そろいもそろって…」



「そういえば、不良野郎は…?」


「あー、頭なら…」


「一応呼んだんだけど、全く返事がなかったから、仕方なく俺たちだけで来た…」


「……」


「はぁ… しょうがないやつだなぁ…」


「天流さん…」


「不良野郎のいるところに案内してくれないか…?」


「えっ… いいけど…」


「マックス、お前はここにいてくれ…」


「うん… わかった…」



「それじゃあ、しっかりつかまっててくれよ…」


「あー… 頼んだぜ…」



 ブルンブルン……



 ゴー―――!!!!



 天流はシンを乗せて、漢組のアジトへと向かって行った。



 キ――ッ…



「着いたぜ…」


「多分部屋の中にいると思う…」


「ありがとうな…」


「ちょっと2人で話したいから、外で待っててくれないか…」


「わかった…」



 シンは漢組のアジトへと入っていった。


「おい… 不良野郎、いるんだろ…」


「……」


「一体何しに来やがった…」


 武勇が部屋の中から出てきた。


「何だ…? 念願の俺に勝てたのに、まだ、トレーニングしてるのか!?」


「まじめな奴だぜ…」


 イラッ…


 武勇はすごい剣幕で、シンの胸ぐらを掴んだ。


「てめぇ… 何であの時立ち上がらなかった!?」


「あんな勝ち方、したところで、うれしくもなんともないわ!!」


「消えろ!! 2度と俺の前に現れるな!!」


 武勇は、シンの頬を思い切り殴り、シンは倒れ込んだ。


「……」


「はぁ… お前…」


「あのまま続けてたら、お前が倒れてたぞ…」


「だったらどうした!? 真剣勝負なんだ、たとえ死にそうでも、闘うのが漢ってもんだろ!!」



!!!!」



「!?」


「お前は、何もわかってない!!」


「何だと!?」


 武勇はまたシンの胸ぐらを掴んだ…


「何がわかってないんだ言ってみろ!!」


「……」


「お前は、負けちゃダメなんだよ…」


「えっ…?」



「あいつらの顔見たか…?」


「お前は、ガキどものヒーローなんだよ!!」


「そんな奴が、どこの馬の骨かもわからない奴に負けてみろ!!」


「ガキどもは、また、この町が襲われたときに、お前が負けるんじゃないかって…」



「ずっと、不安になって生きていくんだぞ!!」



「……」


「それに… お前は、これからもこの町を守っていかなければいけない…」



「もっと、自分の体を大切にしな…」



…」



「……」


 武勇は胸ぐらを掴んだ手を離し、頭を下げ、拳を握り締め、涙を流した。


「あっ… ありがとう…」



「本当に感謝する…」



「ハッ八ッハ!! わかればいいってことよ!!」



「ふっ… そういうことだったのか…」



 その後、武勇も合流して、お別れ会は夜まで続き、お開きとなった。



 ー翌日ー


「じゃあ… 俺たちは行くぜ…」


「みんな、ありがとう!!」



「礼を言うのは、こっちの方だぜ!!」


「また、この町に来てくれよな!!」



「……」


「俺は、この町を守らなければならないから…」


「しばしの別れだ…」


「けどな、兄弟…」



「もし助けが必要なら、俺を呼べ!!」



「たとえ、地球の裏側でも飛んでいくぜ…(原付で…)」



「ふっ… お前の手なんか借りなくても、大丈夫だわ!!」


「ふっ… よく言うぜ…」



「じゃあ… 達者でな…」



「おう!!」


 武勇はシン、マックスと握手を交わし、2人はカラベスを後にした。


 第45話 FIN

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