第44話 ラウンド9

 コソコソ…


 マックスは、こっそりとシンに近づいた。


「ねぇ… シン…」


「大丈夫…?」


「ハァ… マックスか…」


「さっきの一撃で三途の川が見えたぞ…」


「残り2ラウンドどうするつもりなの…?」


「また、避け続けるつもり…?」


「……」


「残りラウンドは…」



…」



「!?」


「一体どうしたの!?」


「ラウンド8まで、一切攻めなかったのに…」



「……」


「あいつ… ずっと、闘いの傷を隠して、俺と闘ってるんだ…」


「きっと… この町の復興の為にずっと、働き続けたから、療養する暇がなかったんだろうな…」


「そんな奴に、逃げ続けてたら、情けないだろうがよ…」



「そうか… 確かに、武勇さん途中ですごくきつそうだったもんね…」


「あー… まぁ見てな… マックス…」



 カン!!


 シンと武勇はリングの中央へ歩いて行った。



「おい… 不良野郎…」


「残り2ラウンドは捨て身で攻め続けるつもりだ…」


「覚悟しろ…」



「望むところだ!!」



 シンは拳を構えて、武勇へ向かって行った。



 くらえ!!



 シンは武勇に対して、左腕でジャブを繰りだした。


「おいおい… 攻め始めがジャブかよ…」


 武勇は、シンのジャブを少しかがんで避けた。


「くらえ!!」


 武勇はかがんだ姿勢から、シンの懐に向かって、左ストレートを繰りだした。


「やベっ!!」



 バン!!!!



 シンは咄嗟に、武勇のパンチをガードした。



 シューー……



 やっぱりすごい一撃だな…


 踏ん張らないと、吹き飛ばされる…



 だが…



 シンは、武勇に向かって行った。



「その… 攻めの姿勢は褒めてやる…」



 次のあいつの攻撃の隙をついて、渾身の一撃を打ち込んでやる…


「くらえ!!」


 ふっ… 何だ… ただの、ストレートパンチか…


 そんなもの、さっきと同じように少しかがんで…



 ストレートを決めてフィニッシュ…



「何っ!!」



 シンは繰りだした、パンチを途中で止めた。



 くそっ… あれはおとり!?



「これで終わりだ…」



ヤンキーの昇拳ヤンキー・アッパー!!」



 パスッ!!



 武勇の顎にシンのアッパーカットが直撃した。


 武勇はアッパーを受けた後、上を向いて、ほんの数秒立ち尽くした。



「……」


「えっ… 全く痛みを感じないぞ…」


「どうなっているんだ…」



「何と!! またしてもシン選手の一撃!! 武勇選手に効いていない!!」


「まさかの展開ですね… 私は、これで決着だと思っていました…」



「ちっ… この体じゃ… やっぱりだめか…」



「なんだかよくわからないが… こっちから仕掛けて…」



 グッ……


 武勇は動き出そうとしたが、その場に立ち止まった。


「くそっ… 体が、動かない…」


「何と!! 武勇選手!!」


「何とその場で立ち尽くしてしまった!!」



「これは真剣勝負だ!! たとえ、お前の体が万全じゃなくても、一切手を緩める気はないぞ!!」


 シンは、立ち尽くした武勇に対して、何度もパンチを繰り出した。


「シン選手の猛ラッシュ!!」


「これは決着をつけに来たとみてもいいでしょう…」



「……」


「くそっ… 鬱陶しい!!」



 武勇はシンの攻撃の隙をついて、カウンターパンチを繰り出した。


「おっと…」


 シンは武勇と距離をとり、武勇のパンチを避けた。


「ハァ… ハァ…」


「武勇…」


「もう体が限界なんじゃないのか…?」


「うるせぇ…」


「俺はまだ… 闘える…」



「あっ!! やってる!!」


 シスターが、子供たちを引き連れて、やって来た。


「あれっ… シスターじゃないか!!」


「すみません… この子達が寝坊しちゃって…」


「いやっ!! 寝坊したのシスターだよ!!」


「ハハハ… そういえば、今どんな感じですか…?」


「今、9ラウンド目に突入していて、シンが結構攻めてるって感じかな(全く効いていないけど…)」


「えっ… 武勇君… 負けてるの…?」


「確かに、フラフラして、きつそうだし…」


「うーーん… 何とも言えないなぁ…」



 カン!!!!



 第9ラウンドが終了して、シンと武勇はインターバルに入った。


「あれっ… シスターたち…」


「今、ラウンド9終わったぞ…」


「誰か寝坊したな…(多分シスター)」



「……」


「おっ… シスターたちじゃないか…」


「おーーい!! お前ら!!」



 武勇は子供たちに向かって手を振った。


「武勇くーん!! 頑張ってー!!」


 あと1ラウンド、何としても勝つ…



 カン!!!! 



 ゴングが鳴り、ラウンド10…


 最終ラウンドが始まった。



「うぉーー!!」


 武勇はリングを走り、シンにパンチを繰り出した。


「やばい… 避けきれない!!」


 シンは咄嗟に、武勇のパンチをガードした。


「ぐっ… おっ… 重い…」


「まだまだ!!」


 武勇はガードを崩すように、何度もパンチのラッシュを繰りだした。


「くそっ…」


 シンはガードの構えを崩さずに、一歩引いて、武勇のラッシュから避けた。


「ハァ… ハァ…」


「こいつ… とっくに限界を迎えているはずなのに、まだこんなに攻撃できる余裕があるのか…?」



「ハァー… ハァー…」


「一発一発、パンチを繰り出す事に、体が悲鳴を上げるようだ…」


「だが… 負けるわけにはいかない…」


「ここで負けたら…」


 武勇は再度、シンに向かって行った。


 がっ…


 武勇は激しい息切れを起こし立ち止まった。


「えっ… 武勇君大丈夫…?」


「まさか… 負けるわけないよね…」


「武勇君は僕たちのヒーローなんだ!!」



「……」


「はぁー… 仕方ない…」



「一肌脱ぎますか…」


 第44話 FIN

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