第32話 走馬灯

「無事でよかったよ…」



「ニア… 怖い経験をしたと思うが… みんなを救いたいんだ…」


「一体何があったのか、教えてくれないか…?」


「……」


「たしか… このあたりで大きな音がして…」


「みんなでお部屋の中に避難してたの…」


「私は… 途中でおなかが痛くなっちゃって…」


「シスターとおトイレに行ったの…」


「そしたら、みんなの叫び声が聞こえて…」


「シスターがね、みんなの様子を見に行った後…」


「髪の長い変な人が、みんなを連れて…」


「あっちの方へ行っちゃったんだ…」


 ニアは、北の方を指さした。



「そうか… 犯人はそいつだな…」


「ニア… よく話してくれた…」


「マックス…」


「お前は… ニアを連れて…」


「みんなが避難してるとこに連れて行ってやってくれ…」


「……」


「私、ひとりで行けるから…」


「2人でみんなを救ってあげて…」


「!?」


「ダメだ!! 危険すぎる!!」


「そうだよ!! 僕と一緒に…」



!!」



「!?」


「早く行って… みんなを…」



!!」



「……」


「わかった…」


「ニア… お前は本当に優しい子だ…」


「大丈夫…」


「俺たちが悪いやつらを倒して、みんなを助けてやるからな…」 


 シンはニアの頭を撫でた。


「あっ… ありがとう…」



「よし…」


「マックス…」


「ちょっと能力を借りるぞ…」


「わかった…」


 カチッ…



 シンは自分の右腕に銀の腕輪、マックスは自分の右脚に金の腕輪をつけた。



「よし…」


「じゃあ行こう!!」



 能力名:走人ランナー



 シンとマックスはニアの指さした方向に走り出した。



「……」


「そうだセクストン…」


「お前に良い役を与えてやるよ…」


「何だ…?」


「お前の大砲で、あのリーゼント野郎を処刑してやれ…」


「そうすりゃ… 腹の虫も収まるだろ…」


「へっ… そりゃ、願ってもないことだぜ…」


「おい!! リチャード!!」


「俺があいつを殺しちまってもいいんだよな!?」


「あー… いいぜ…」


「俺はガキ共を見張っている…」



「……」


「おい!! 武勇!!」


「酒だ!! 酒を持ってこい!!」


「親父… 酒なんて買う金もうないぜ…」


「何っ!?」


「だったら… 盗んで来い!!」


「いいか… ここに持ってくるまで家に入れないからな!!」


「……」


 俺は、とあるスラムで生まれた。母親は他に男を作って出ていき、大酒飲みで、すぐに手を出す父親と一緒に暮らしていた。


「……」


「俺は何のために生きているんだろう…」


「そうだ…」


 武勇は近くにあったガラス片を手に取り、自分の首に近づけた。


「これで、首を切れば楽になれるかもな…」


「やっと…」


「やっと… こんな人生からおさらばだ…」



「おい!! てめぇ!!」


「!?」


「どこに目ぇつけてんだ!!」


「どこって… 俺の顔に2つついてるのが見えないのか…?」


「なんだとぉ!?」


「それに、ぶつかってきたのはそっちだろ?」


「……」


「おい!! お前ら!!」


「どっちが先にぶつかったか見てたよなぁ…」


「えー… 間違いなくこいつからでしたぜ…」


「ふっ… やっぱりそうだよなぁ…」


「ふぅー… ボスもバカなら…」


「子分も子分だ…」


「何っ!?」


「5人もいてみんな目が節穴とは…」


「グゥゥゥゥ…」



「おい!! お前ら!!」



「こいつをボコボコにしてやれ!!」


「はい!!」


「ふっ… 来い…」



 5人組は男たちは1人の男を袋叩きにし、羽交い絞めにした。



「ハァ… ハァ…」


「ハァ… 何だこいつ…」


「1人なのに、なかなかやるぜ…」


「だが… これで終わりだ!!」


 リーダーの男は右ストレートを繰りだした。



 バシッ!!



「えっ…」


「おいおい… こんな人数で1人を袋叩きだなんて…」


おとこらしくねぇじゃねぇか…」


「なっ… 何だこいつ!!」


「俺のパンチを止めやがった!!」


「!?」


 グッ!!


 がはっ…


 男は肘打ちで羽交い絞めから抜け出した。


「おい、あんた…」


「助けてくれたのか…?」


「いやっ… ただ喧嘩がしたかっただけだ…」


「ふっ… なんだそれ…」


「まぁいい… 来るぞ!!」


「おう!!」


 武勇達と5人組の男たちとの喧嘩は熾烈を極めた。 結局、男たちは、勝ち目がないことを悟ると、途中で逃げだした。 武勇達は闘いの後、もう立ち上がる気力もなく、地面に寝転がった。 



「ハァ… ハァ…」


「なんだよ、あいつら…」


「最後まで戦えよ…」


「ほんとそうだよな…」


「なぁ… あんた、名前は何て言うんだ…」


「俺か…?」


「俺の名は愛羅武勇あいらぶゆう…」


「お前は…?」


「俺は愛死天流あいしている…」


「ふっ… あんた強いんだな…」


「お前もな…」


 武勇と天流は立ち上がり、握手をした。


「あんた家はあるのか…?」


「あるっちゃあるが…」


「……」


「あー… それ以上は聞かない…」


「なんとなく想像はつく… この町じゃ珍しくないことだ…」


「よかったら… 俺が一人暮らししている家に来ないか…?」


「いいのか!?」


「おう!!」



 武勇と天流は歩き出した。


「なぁ… 天流…」


「どうして、この町には道端にこんな多くのガキが寝てんだ…?」


「……」


「そりゃ… 住む場所がないからだ…」


「きっと、親に捨てられたんだろ…」


「ほんと… 大人ってのは卑怯な奴らだ…」


「そして、いつもその被害を受けるのは何の罪もない子供なんだよな…」


「……」


「そうか…」


「だったら… 俺がそいつらの居場所を作る…」


「マジかよ!?」


「あー… お前、ついてきてくれるか…?」


「ふっ… いいぜ…」


「じゃあ… よろしく頼むぜ…」


「いや…」


「よろしく頼みます… 頭…」


 えっ… 何故に敬語…?



 こうして、武勇達は漢組を立ち上げ、スラムの子供を組にいれた。その後、劣悪な環境であるスラムを抜け出した。



 ……


 これが走馬灯ってやつか…




「おい!! 聞いてんのか!!」


「おい!!」


「……」


「まぁいい… どうせ死ぬんだ…」



 カチャッ…



 セクストンは大砲になった右腕を武勇へ向けた。



「じゃあな…」



「ファイアーーーー!!!!」



 ドン!!!!


 第32話 FIN

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