第28話 愛羅武勇

「ふぅー… 相変わらずすごい迫力だ…」



「おっさん… あのリーゼントの人は一体何者なんだ…?」


「……」


「あの人は愛羅武勇あいらぶゆう…」



「このカラベスという街はあの人が頭を務める漢組おとこぐみって暴走族が支配してるんだ。」


「やっぱりな… どおりで、ここの治安が悪いはずだ…」


「……」


「逆だよ… あの人たちが来てから、この町は平和になったんだ…」


「えっ!?」



「ここは昔、とあるマフィアが支配していてな。 毎日のようにマフィア同士が酷い争いをしてた時期があってな…」


「みんな絶望の中生きていたんだ。」


「ある時… 武勇さんたち、漢組が町にやってきて、恐ろしい強さでそのマフィアを壊滅させたんだ…」


「その後、漢組がこの街を統治すようになり…」


「悪いやつらが一切この町に寄り付かない平和な街になったんだ…」


「だから… わしらは本当にあの人に感謝してるんだよ…」


「まぁ… 気性が荒いし、人相が悪いから… 悪い人にしか見えないけど…」


「本当はとてもいい人なんだよ…」



「……」


「そうだったのか…」


「人は見かけには寄らないっていうことだね…」


「そういえば… おじさん…」


「来週… 何かあるの…?」


「あーそれはね… スラムにある孤児院の子供達の為に…」


「ケーキの差し入れをすることになってるんだ…」


「だからその準備ってこと…」



「……」


「そうだったんだ…」


「まぁ… あんたら喧嘩すんのはいいけど…」



「決して悪い人じゃないってことだけは覚えといてくれよ!!」


「……」



 シンとマックスは店を後にして、歩き出した。


「なぁ… マックス…」


「あのおっさんの話… いまだに信じらないんだが…」


「本当にあいつはいいやつなんだろうか…?」


「どうだろうね… けど… おじさんの話が本当なら…」



「あの人相当強いよ…」



「……」


 ブルッ…


 シンは身震いをした。


「まぁ… あいつが善人、悪人なんて俺には関係ない!!」


「5日後の決闘までにこの街を出発するぞ!!」


「……」


「まぁ… シンがいいならそれでいいけど…」


「闘ってみるのもいいんじゃない…?」


「物語の主人公として…」


「マックス…」


「物語の展開よりも… 俺の命だ…」



 ブルンブルン!!



「!?」


「まっ… まさかこの音は!?」


 キ――ッ…


 シン達の近くに原付バイクが止まった。


「あっ… あんたはさっき武勇となんか話していたやつ!!」


「よぉ… あんたら、武勇さんに喧嘩売ったやつらじゃねぇか…」


「いいのかトレーニングしなくて、あの人相当気合入ってるから…」


「ほんと… なめてると、ぶっ殺されるぞ!!」


「……」


「ふっ… 弱い犬ほどよく吠えるとはこのことか…」


「なにっ!?」


「いいか… あいつに伝えておけ!!」


「お前なんて… ボコボコにして、この町は俺のものにしてやるとな!!」



「……」


「テメェ… いい度胸じゃねぇか…」


「誰をボコボコにするって…?」



「!?」


「まっ… まさか…」


 シン達が後ろを振り返ると、武勇がポケットに手を突っ込み、後ろから歩いてきていた。


「本来ならば… ここでボコボコにしてやるんだが…」


「まぁ… いいだろう…」


「お前… 俺をボコボコにしたら、ここを自分のものにするのか…?」


「……」


「そうだ…」


「フッ…」


「いいぜ…」


「えっ!?」



「俺は、一応この街で頭張ってんだ…」


「トップを倒せば、そこを支配できるなんて、当たり前のこと…」


「けどな…」



「俺は絶対に負けないぞ…」



「……」


「おっと、もうこんな時間か…」


「ちょっと後ろ乗せろ!!」


「はいよ…」


 武勇はバイクの後ろに乗りヘルメットをかぶった。


「じゃあな… 決闘まで震えて眠れ…」


 武勇を乗せたバイクは走り出した。


「……」


「何か… 嵐のように去っていったな…」


「まぁ… いいや…」


「とりあえず、マックス…」


「出発までの寝床を探そう…」


「そうだね…」



 ー日没前ー


「やばいな… これだけ歩いても… 宿泊先が見つからないぞ…」


「ほんとだね… このままじゃここで野宿…?」


「絶対に嫌だ!!」



「くっそー!! 誰か泊めてくれないかな…?」


「……」


「そうだ!!」


「マックス!! 俺たちが昼、食ったあのレストランに泊めてもらおうぜ!!」


「シン… さすがにそれは厳しいんじゃない…?」


「だったら… あのおっさんの家!!」



「あのー… すみません…」


「えっ?」


 シン達の前に、修道着姿の女性が現れた。


「寝床を探しているのですか…?」


「もしよければ… 泊まりに来ませんか…?」



「えっ!! ほんとかよ!!」




「ここです…」


「フランツ孤児院?」


「えー ここでは男の子7人女の子5人の計12人が一緒に暮らしているんです。」


「滞在中は、この施設の中にある部屋を使ってください…」


「ほっ… 本当にいいんですか!?」


「えー… いいですよ…」



「おかえり!! シスターー!!」


 少女が走ってきて、修道儀姿の女性に抱き着いた。


「こらこら… ニア…」


「お客さんの前ですよ… あいさつしなさい…」


「あっ…」


「こんにちわ!!」


「違った… こんばんわか…」


「こっ… こんばんわ…」


「あのー… この子は一体…?」


「……」


「この子はニア…」


「この孤児院に住んでいる子なんです…」


「あっ… 申し遅れました…」


「私… ここで子供たちの面倒を見ています…」


「シスターのアイリーンと申します」


 第28話 FIN

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