第27話 スラム街

 グゥゥゥゥゥ……


「いかん… マックス…」


「隣町まで… あと…」


「150キロくらいある…」


「正直言って… 歩くだけなら何とかなるかもしれん…」


「けど… 食料と水が底をつきそうだ…」


「このままだったら… 目的地に着く前に餓死するぞ…」



「本当… 毎日なんも考えずに旅をしているからね…」


「ん… ポケットに何か入ってる…」



 マックスはポケットからビスケットを取り出した。



「……」


「マックス…」


「俺は本当にお前を旅に加えてよかったと思う…」



 シンはマックスの肩を叩いた。


「まさか… お前にそんな、慈愛の精神があるとは…」


 グスッ……


「お前のその優しさを受け取って…」


「ビスケットは俺がいただくとしよう…」


「……」


「えっ…」


「僕のポケットに入ってたんだからこれは僕のだよ…」



「!?」


「マックス…」


「人間って言うのは…」


「他人に何かを与えるやつが成功できるって聞いたことがあるぞ…」


「もしかしたら… ビスケットを俺に渡したら…」


「お前は成功者になれるかもしれないぞ…」


「……」


「じゃあ… シンは僕に何をくれるの…?」



「……」


…」



「なっ… 何だ… その顔は…」


「なんで… そんな… 蔑むような目でこっちを見てるんだ…」



「……」


「シン…」


「やっぱり… これは僕が食べるよ…」



 アーン…



「何っ… そうはさせるか!!」


 ビスケットが口に入る寸前、シンはマックスの腕を両腕で抑えた。



「なっ… 何をするんだ!!」


「ハァ… ハァ… これは俺のだ…」



「よこせ!!」



「いやだ… これは僕のだ…」


「絶対やるもんか!!」



「ぐぅぅ……」



 ポロッ…



「あー!! ビスケットが!!」


「おっ… 落ちた…」



「……」


「マックス…」


「行くか…」


「そうだね…」



 ー数十分後ー


「あっ… シン!!」


「あそこ見て…」


「この道のずっと先に町みたいなのが見えるよ!!」


「えっ…」 


「ほんとだ!!」


「あれっ… でも地図にあんな町、載ってないぞ…」


「まぁいっか!! 急ごうマックス!!」


「うん!!」



「なんだ… この町は…」


「ゴミだらけじゃないか…」


「すごい臭いだね…」


「一体ここは何なの…?」


「……」


「スラム街ってやつだ…」


「にしても… 昼間なのに… 人っ子一人いないぞ…」


「ほんとに大丈夫なのかここ…?」



 グゥゥゥゥゥ……


「いかん… 空腹でそれどころじゃねぇ…」


「とにかく… どっかで… 飯にしよう…」




「うんめーー!!」


「ほんとこのチャーハンおいしいよ!!」


「八ッ八ッハ!! ありがとね!!」


「いやー… ほんと廃墟みたいな店なのに…」


「味は最高だな!!」


「シン… すごい失礼だよ…」


「ハッハッハ!! いいってことよ!!」


「料理人としては味を褒められたら十分だ!!」



「ところでおっさん…」


「この町って、地図に載ってなかったんだけど… 何か知ってるか…?」


「あー…」


「ここはな… カラベスって街なんだ…」


「カラベス…?」


「そうだ… ここは… 正式には町として成立していないんだ…」


「えっ!?」



 ブルンブルン……



 ゴー―――!!!!



「!?」


「一体何…? このうるさい音!?」


「何だ、バイクのエンジン音か!?」


「近づいてくるぞ!!」



 キ――――ッ!!!!



「!?」



 店の前には大量の原付バイクが並んだ。 そして、先頭を走っていた男がヘルメットを脱ぎ、バイクを降りた。



「……」


「おい… ちょっと寄ってくるわ…」


「はい… 頭…」



 男はシンたちのいる方に向かって歩いてきた。


「よぉ… おっさん…」


「ぶっ… 武勇ぶゆうさん…」


「確か… 来週だったよなぁ…」


「はっ… はい…」



「よかった… 覚えていて…」


「もし忘れてたら… 一体…」



…?」



「そっ… そんなわけないじゃないですか…」



「……」


「ねぇシン…」


「この人達いったい何…」


「いやー… まさか…」


「この時代に…」


「リーゼントに長ラン、ボンタン姿のやつがいたなんて…」


「いいか… マックス…」


「こういうのを不良って言うんだぜ… あんまり関わらないほうがいいから… 目を合わせちゃだめだ…」


「わかった…」



「……」


 リーゼントの男はシンたちの方を見て、歩いて近づいてきた。


「おいテメェら…」


「さっきからチラチラと… 俺は見世物じゃねぇぞ!!」


「いったい誰にメンチ切ってると思ってんだ…?」



「……」


「あのー… つかぬことをお聞きしますが…」


「なんでそんな変な格好してるんですか…?」



 プチッ…


「あん!?」


「こらマックス!!」


「この姿がかっこいいと思ってるんだから… そんな言い方したらかわいそうだろ!!」



 プツン…


「……」


「それに、多分関わると面倒な奴だから… 話したらダメ!!」



「きっと… この街が荒れてる原因はこの人たちなんだから!!」



 プッチーン!!!!



「んだと!! テメェ!!!!」



 男はシンの鬼のような形相でシンの胸ぐらを掴んだ。



「テメェ!! もう許さねぇ!!」



「今すぐ!! タイマン張れ!! ボコボコにしてやる!!」



「……」


「フフッ… フハハハハ!!」


「!?」


「あん!?」


「ハァー… まぁ… タイマン張るのはいいが…」


「俺は強いぞ…」



「フッ!! ハッタリかましやがって!!」



「……」


「まぁ… そう思うのは勝手だが…」


「せっかく不良なんだったら… 強いやつと闘ったみたいと思わないか…」



「……」


「まぁ一理あるな…」



「だろ…」


「けど… 最近体がなまっちまってな…」


「5日間…」


「5日間… あれば完璧なコンディションで闘うことが出来る…」



「……」


「わかった… それまで… 絶対に逃げるなよ!!」


 男はシンの胸ぐらを掴んでいた腕を離した。 その後、バイクの方に向かって行った。



 男は乗ってきたバイクにまたがり、ヘルメットをかぶった。


「5日後の正午… この店に来い…」



!!」



「……」


「わかった…」



「おい!! おめぇら… 行くぞ!!」


「おう!!」


 男は、仲間たちとバイクを走らせた。



「……」


「大丈夫シン!?」


「あー… 大丈夫だ…」


「ならよかったけど… まさかシンがそんなに強い人だったなんて知らなかった!!」


「きっとあの人にも勝てるよ!!」


「……」


「何言ってんだ… マックス…」


「あれは全部嘘だよ…」


「えっ…」


 第27話 FIN

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