第26話 幽霊城とお化けの霊花

「それくらいからだわ… この城に幽霊が出るって言われ始めたのは…」


「おかげで… 気味悪がって、誰もこの城に来なくなって…」


「私はずっと一人だったの…」



「でもね… ある時、この幽体離脱が出来るってわかって…」


「レイアちゃんが置いていった服を着てみたり…」


「町に出て、お散歩してみたり…」


「いろんなことを経験したわ…」


「けどね… ずっと一人だったから…」


「何にも楽しくなかったの…」



「そんなとき、あなたに出会って…」


「一緒に日々を過ごすうちに…」


「毎日が楽しく、希望が持てるようになったわ…」



「ありがとう… カタリベ君…」



「霊花ちゃん…」



「それは… 僕の台詞だよ…」



 カタリベの目から涙が流れた。


「僕は… 僕は…」


「ずっと君を探していたんだ…」


「だって…」



…」



「……」


「カタリベ君…」



「私もよ…」



「たった10年くらいの短い人間生活だったけど…」



「好きな人を思い続けることが出来て…」



「私の人生はとても幸せだったわ…」



「本当に… ありがとう…」



 霊花はカタリベの頬にキスをした。



「……」


「霊花ちゃん…」


「僕は君を一生忘れないよ…」



「……」


「フフッ… それは嬉しいな…」


「カタリベ君…」



「さようなら…」



 霊花の姿が完全に消えていった。



「ばいばい… 霊花ちゃん…」



「……」


「もうこんな時間か…」


「そろそろ行かないと…」


 カタリベは、レイア城を後にして、小走りで会場に向かった。



「えー… そしたら…」


「後ろの方に何か… 料理人っぽい人影があったんですよね…」



「裏飯屋… だったんですよ…」



 シー―ン……



 なっ… 何だこの空気は…


 観客の視線が痛い…


 それに…


 何だあの… 何とも言えないマックスの顔は…


 くっそー…


 もう話のストックはないぞ…


 一体どうすれば…


「シンくーん…」


 カタリベが舞台袖から声をかけた。


「!?」


 カタリベ!!


「はぁ… はぁ…」


「あとは任せて…」


「わかった…」



「それじゃあ… ありがとうございました…」


 シンは舞台袖にはけていった。



「カタリベ… 楽しかったか…?」


「うん… やっと思いを伝えることが出来たよ…」


「シン君… ありがとう…」


「あとは任せて…」


 その時、カタリベとシンの腕輪が光りだした。


「!?」


「えっ… どうしてこのタイミングで光るんだ…(確か俺が壇上に上がった時は光らなかった…)」


「ともかく… カタリベ!! 腕輪の上からこの黒いタオルを巻いてその光を遮るんだ!!」


「わかった…」



「えー… 何とも言えない空気になりましたが…」


「シンさんありがとうございました!!」


「それでは… “怪談話大会スケアリー・ナイト”最後の噺家…」



「カタリベさん、よろしくお願いしまーす!!」



「はい…」


 カタリベは舞台に上がっていった。



「これは僕が体験した怖い話です…」



 “幽霊城とお化けの霊花”



「……」


「これがレイア城か…」


「ほっ… 本当にお化けって出るんだろうか…?」


「……」


「よし… 行こう…」



 ギギギギギギ……



 バタン!!



 ヒュー……



「さっ… 寒っ…」


「しかも… 足取りがすごい重たい…」


「……」


「せっ… せっかく来たんだ…」


「あの階段の上まで行って帰るか…」



 カタリベは重い足取りでゆっくり階段を上っていった。



「もう少し… もう少しで…」


「やった… 上り切ったぞ…」



「……」


「なっ… なんだ… 何も出ないじゃないか…」


「さて帰るか…」



 カタリベはレイア城、玄関の扉まで行った。


「さて… それじゃ…」



 ギギギギギギ……



「お邪魔しました…」


「って… 誰もいないか…」



 ツンッ…



「えっ…?」


「誰…?」



「フフッ…」


「私… 霊花って言うの…」


「よかったら…」



…?」




「カタリベ…」


「まさか… お前…」


「このレイア城を買い取るとは…」


「一体何を考えてるんだ…?」



「……」


「あーそれはね…」


「ここがただの幽霊が出る城ってだけなのが何か寂しい気がしてね…」


「僕がしっかりと整備して… みんなが気軽に来れる場所にしてあげようと思ったんだよぉ…」


「それに…」



 ニャーー……



 黒い猫(霊花のもとの姿)がカタリベに近づき、頬を脚に摺り寄せた。



「フッ…」


「この城には沢山の思い出が詰まってるんだ…」


「だから… そのお礼も兼ねてって感じかな…」



「そうか…」


「まぁ… あの伝説の話の舞台になったところだから、いっぱい人は来るだろうしな…」



「そうだねぇ…」


「この誰も寄り付かなかった城に、いつか…」


「多くの人が足を運んでくれるように頑張るよ…」



「ふっ… そうだな…」



「おーい!! シーン!!」


「行こーう!!」



「おっ… マックスが呼んでるわ…」


「それじゃあ… カタリベ…」



「達者でな!!」



「うん!! ありがとうね!!」



 シンはマックスに向かって駆けて行った。



「……」


「ふぅ… 霊花ちゃん…」


 カタリベは黒猫を両手で抱きかかえた。


「もう寂しい思いはさせないよ…」


「僕がそばにいてずっと君とこの城を守り続けるからね…」



「って…」


「猫の姿だったら… 話しかけたって無駄…」



「ありがとう… カタリベ君…」



「えっ!?」



 黒猫はカタリベの腕の中で眠っていた。


「八ッ… ハハハ…」


「さて… 作業するかぁ…」




「いやー!! これにて一件落着ってか!!」


「……」


「どっ… どうしたマックス…」


「そんな浮かない顔して!?」


「……」


「ちょっと考えてたんだけど…」



「僕たちがあの城で会った、白装束を着てた女の人って何だったんだろう!?」



「……」


「マックス…」


「急ぐか…」


「うん… そうだね…」


 第26話 FIN

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