第19話 カール・ナザロフ

「あー確かに…」


「雰囲気はかなり似てるわ…」


あいつルイスと…」



「おじさんさっきの話どういうこと…?」


「おじさんと父さんはどういう関係だったの…?」



「昔、ルイスと俺は、競技は違えど、同じ陸上選手として、気心知れた仲だった…」


「共に辛いトレーニングを乗り越え、時には酒を交わすほど…」



「だが、俺とあいつには大きな壁があった…」



「それはだ…」



「賞を総なめにし、一流アスリートとしての階段を駆け上がっていくあいつ…」


「一方… 俺は、大した結果も出せず、うだつの上がらない日々…」



「いつしか、…」



「だが、ある日、俺の家に差出人不明の小包が届いた…」



「その中身がこれドラッグだった…」



「初めは俺も、拒絶したさ…」


「だが… 段々、自分の立場がなくなっていくことを感じた俺は…」 


「とある小さな地方の大会で、思い切って、これを使った…」



「効果はすごかったよ……」



「他を寄せ付けない好記録…」



…」



「それ以来、俺は、これドラッグを使って、あらゆる賞を取りまくり…」



「エリート街道をひた走った…」


「だが… そんな時期、あいつルイスに薬を使っているところを見つかった…」


「そしてあいつは俺の頬を殴ってな…」



「君のような才能のあるやつがこんな物を使うな!!!!」



「って言いやがった…」



「正直… ……」



「良いよな才能のあるやつは… こんなものに頼らなくていいんだから……」


「あいつの言ったことが皮肉にしか聞こえなかった…」


「それ以降… 俺は、あいつの人生をめちゃくちゃにすることだけを考えて、生きてきた…」



「そして… それをあいつが競技人生で一番重要な大会の日に事件を起こした…」



「その後、雇った殺し屋にチクられ、乗せられた護送車の中で暴れて逃走…」


「今は立派なお尋ね者ってやつさ…」



「おじさん、ナザロフって名前でしょ…」


「ハンマー投げのカール・ナザロフ…」


「思い出したよ… 昔… 陸上の競技場で見かけたことがあったから…」


「あーそうだよ…」



「いつも父さんが言ってたんだ… あいつは、いつか世界に世界に羽ばたいて行く選手だって…」


「おじさん… 本当はいい人なんでしょ… だったら罪を償ってもう一度やり直し…」



「だまれ!!!! クソガキ!!!!」



「!?」



「お前も、あいつルイスもそうだ!!!!」


「どうせ俺のことなんて… 見下してんだろ!!!!」


「そっ… そんなこと…」



「その目だよ…」


「その穢れけがれがない純粋な目… 俺が一番嫌いなものだ!!!!」


「……」


「ハァハァ… お前が何度俺を説得しようが、無駄だ…」


「俺はこれからも盗賊として生きていく…」


 ナザロフは、持ってきたリュックの中から、一本の注射器を取り出し、自分の右腕に刺した。


「ガ八ッ!!」


「ハァハァ…」


「おいチビ… 金を返して欲しかったら… 俺を殺す気で来い…」



「わかったよ… おじさん…」


「何があってもお金は返してもらうよ…」



 能力名:走人ランナー



「来い… 殺してやる…」



 シュッ…



背面蹴りベリーロール・キック!!!!」



「どうだ!! さっきよりも、力を加えた蹴り…」


「ひとたまりもないはず…」



「……」


「おいおい… さっきと同じ技かよ…」


「!?」


 マックスの蹴りは、ナザロフの体に止められていた。


「嘘でしょ…」


「次は俺の番だ…」


 ナザロフはマックスの足を掴み、思い切り地面に叩きつけた。



「ガッ!!!!」



「どうした… もうギブアップか…?」



 だめだ!! しっかりしないと!!


 マックスは距離をとった。


「ハァハァ… くそーっ!!」


「蹴りを食らわせても、あの大きな体には効かないのか…」


「どっか弱点はないのかな…?」



「おいくそチビ!! そんな逃げてどうすんだ!!」


「だったらこっちから行…」



「ガ八ッ!!!!」



「!?」


 ナザロフは地面に両膝をついて、血を吐いた。


「おじさん大丈夫!?」


 マックスはナザロフの方に駆けていった。


「ハァハァ…」



「近づくな!!!!」



 ナザロフは、駆け寄ったマックスを左腕で殴り飛ばした。



「ぐっ……」



「いいか、お前と俺は殺し合いをしているんだ!! 馴れ馴れしく近づくな!!」



「ハァハァ…」


 まずいな… 副作用が強くなってきた…


 仕方ない… あれを使うか…



 ナザロフはリュックから、紫色の瓶を取り出し飲み干した。


「ハァハァ…」



 ドクン!!!!



「!?」


「ぐっ…… おぇーーっ!!!!」



「だっ… ダメだ…」


「体が言うことを聞かな……イ」



「タスケテ……」



「!?」


 ナザロフの体の変化が終わった、全身の筋肉がはちきれるぐらい肥大化して、息を荒げていた。


「なっ… 何だこれ…」



 ゴクッ…


「さっきよりもおっかない姿になってる…」



「フゥゥゥゥ… フゥゥゥゥ…」



 グゥオオオオーーーー!!!!



 ナザロフはマックスに向かって走り出した。


「くっ… 来る…」



 ナザロフはマックスめがけて、大きく振りかぶって殴りかかってきた。



昇り蹴りスイング・キック!!!!」



「だめだ… 僕の蹴りでは防ぎきれない…」


 マックスは大きく跳ばされた。


「ハァハァ… ダメだ…」


「反撃しな…」



 ガン!!!!



 マックスが立ち上がろうとしたとき、ナザロフの拳が直撃し宙を舞った。


「ゲホッ…」


 バタン……


「ハァ… ハァ…」


 だめだ… 動けない…


 意識が遠くなる……



 ナザロフは倒れているマックスに拳を振りかざした。



「ごめんな… オリバー…」


「頼りない兄ちゃんで…」



その時、マックスの右足についていた金の腕輪が光りだした。



「眩しい…」



 ドン!!!!



「……」



「おい… 起きろマックス!!!!」 



 シンが、ナザロフの拳を右脚で抑えていた。


 そして、ナザロフを蹴り飛ばした。



「シン…?(僕と同じで右腕に付けている銀の腕輪が光ってる…)」



「弟を助けたいんだろ!!!!」



「うん…」


「だったら立ち上がるんだ…」



「俺も一緒に闘うから…」



「ありがとう…」



「マックス立てるか……?」


「うん… なんだか体が軽いよ…」


「よし… それじゃあ…」



「あいつを倒して… 金を取り返す!!!!」



「やってやるぞ!!!! 俺たちで!!!!」



「うん!!!!」


 第19話 FIN

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