第6話 堕ちた覇王

 “ジョルジュ・グランドタワー” シンが管理しているビルである。経営している4社のオフィス兼、自宅となっている。


「シモンニンショウヲオネガイシマス」


「はいはい」


 ピー


「カクニンシマシタ ドアヲアケマス」


 ウィーン


「おーい 帰ったぞー!」


 シーン…


「おーい! おーい!」


 シーン…


「おかしいなぁ いつもならだれか来るはずなのに……」


「おーい! マトーン!」



「ふぁーい… どなたですかぁ~?」


「やっと来たか 俺だ」


「えーと 俺だと言われましてもどなたです?」


「何寝ぼけたこと言ってんだ! シンだよ!」


「えっ… あ~ファンの方ですか?」


「何言ってんだ! 本人だよ!」


「えっ…」


 マトンは考えた、目の前に知らない人がいる。しかし、この建物は、高度な指紋認証センサーを搭載しており、関係者しか入れないシステムになっている。


 ということは――


「えっ!! ほんとにシン様!?」


「って 言ってるだろ」


「どどど どうしたんですかその姿!!」


「どうしたって…?」


「とりあえず!! 鏡見てください!!」


「かっ 鏡――?」



「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」



「縮んでるーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」



「驚きましたよ!! 190cmくらいあったのに、今は155cmくらいですよ!」


「私と変わらないです…」


「クソッ ブラックめ、俺にこんな呪いをかけやがったか」


「どどど… どーします!?」


「どーするって 呪いを解くためには、ブラックを倒すしかないだろ!!」


「えっ 倒すって、まさかブラックに負けたんですか…?」


「あーそうだよっ!! 次は、絶対に勝つ!! マトン、トレーニングの準備をしろっ!!」


「了解です」


 ―トレーニング室―


「いいですかー 練習相手は身長200cm 体重100キロで、肉体強化の能力を持つCPUを設定しました!」


「わかった、すぐ終わらせる!!」


 レベルとしては楽勝かな…


「では、始めっ!!」



 ハァァァァァァァァァァ!!!!



「ちびになってもすごい威圧感 けど、何かおかしい…」




「おかしいぞ… いつもより能力発動の時間がかかる」


 というか――


「発動しないっ!?」


「シッ シン様!! 避けてください!! CPUの攻撃が来ます!!」


「フンッ!!」


「クソッ!(ヒュッ)」


「こうなったら、能力なしで戦ってやる!」


「やめてください シン様!」


「うおー!」



 ~10分後~


「ぎっ… ギブです…」


「設定解除しました! 大丈夫ですか!?」


「大丈夫じゃねえ! 能力が使えないんだ…」


「一度病院で見てもらったらどうです…?」




 ―病院―


「それは、栄養不足ですなぁ~」


「えっ… そんな単純なことなの…」


「はいっ まず、なぜ能力が使えるようになるかを簡単に説明しますと、食物や水分中に含まれる‟生物進化促進質”という栄養素が人体に取り込まれることで、エネルギー源となり、遺伝によって定められた能力を、使用することができるようになるのです。」


「うん」


「今って結構暑いじゃないですかぁ それが原因で、汗をいっぱいかいて水分不足、バテて食欲不振など、結構この時期来る患者さん多いんですよねぇ~」


「なるほど」


「だから、水分を沢山とって、いっぱい食べたらすぐ治ると思いますよ~(身長も戻ると思いますよ~) 今はどんな飲食物でも摂れるからねぇ~」



 ~数日後~


「おい! ヤブ医者! 言われた通りに、死ぬほど飲み食いしても治んなかったぞ! どうしてくれるんだ!!」


「ちょっ… ちょっと待ってくださいよー おかしいなぁー だったら精密検査します?」


「もちろんだ!」


 ~数時間後~


「えっ 噓だろ… ジョルジュ・シンって、まさか!(名前を確認してなかった…)」


 医者はとても慌てていた。 まるで何かの大事件のように――


「ちょっとお尋ねします! 最近、ディアボロス・ブラックと関わりましよね!?」


「えっ… なぜそのことを?」


「やっぱり! 似ているんです症状が、過去の挑戦者たちと!(身長が縮む以外は)」


「なに!」


「いいですか、落ち着いてよく聞いてください! あなたの体は――」



 ゴクッ――



「あなたの体は死んでいるんですっ!!」



「えっ… どういうこと? 俺ピンピンしてるぞ!?」


「詳しく説明します。 まず、あなたの体はゾンビ状態と言っても過言ではない!!」


「ゾ、ゾンビ!?」


「はい… 今のあなたの体は死体とほとんど変わらないからです!」


「まず、全ての器官は機能していないので、エネルギーを作り出すことが出来ません。」


「ちょ… ちょっと待ってくれ! だったら、どうして俺は動くことが出来て、飲み食いができるんだよ!?」


「それが、謎なんです。 ブラックであれば、簡単に絶命させることができると思うんですが、どうしてこんな状態にしても、挑戦者を生かすのか?」


「そして、もう一点。 あなたの身長の謎です」


 ――ゴクッ…


「これに関しては――」



「さっぱり、わかりません!!!!」



 ――ズコッ!!



「と、とにかく! どうすればいいんだ俺は!」


「残念ながら、現代医療では解明されていない症状です… これは諦めるしか…」


「なんだって! 俺のキャリアがぁ…」



 このニュースはすぐ世間に広まった。 

 スポンサーとしてついていた企業は全部降り、経営していた会社の景気が悪化し、倒産した。 高級ビルも外車も地位も名誉も金もすべて失った。残ったのは、4億ドールという多額の借金だけである。 そして、人々は手のひらを返したように、俺をバッシングするようになった。 見ず知らずの人間からの誹謗中傷、共に働いていた人間は、俺を切り捨てた――。


 地元に帰らせていただきます…(マトン)


 マトンお前もか――(ガクッ)



 俺は… 終わったのか…



 ~半年後~


 時が経つのは早い。 少し前まで、時代の先端を走っていた俺は、世間から忘れられ、過去の存在となっている。 現在とある製パン工場で働いており、給料のほとんどが借金の返済に消え、残りで何とか生活している状態である。 そんな俺の唯一の楽しみは、この無料でもらえるパンである(特にメロンパン)。 外側のサクサククッキー生地に、中にはメロンのクリームがたっぷり入っている。 これを食べるために生きていると言っても過言ではない。


「フゥ… 美味なり…(けど歯につくのがたまに傷) さて、今日も格安ホテルに泊まるか…」


(残金250円)


「え~っ!! もしかして公園で野宿!?(ガーン) クソッ まぁ仕方ないし寝るか… 疲れたなぁ…」


 寝ようとした、その時だった――



「あ、見つけたぁー! おーい探したんだぞー!!」


「えっ… 誰!?」


「誰ってあたしだよっ!!」


「えっ… しっ… 師匠!!」


 ニッ!


 この出会いが、俺の運命を大きく変えることになるとは、まだ知らない――。


 第6話 FIN

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