第4話 世界の深淵を知る者

 釣り場には4つの規則がある。


 1.当店、お客様に関する情報の漏洩禁止。

 2.やり取りされた情報の漏洩禁止。

 3.店内の風紀を乱す、お客様に迷惑をかける等、第三者を不快にさせる行為の禁止。

 4.店内での無銭飲食の禁止。


 これら4つの規則を破りし者に、管理人はを得る。



「これで479ページ目か」


「何を言ってんだこいつは、まさかあの小さな本で戦うのか?」


「お客様離れていただけますか? さて、ドロン様ご覚悟を――」 



 能力名:知は力なりノウレッジイズパワー



 ブウン…


 ほっ、本が消えた――


 けど何も起こらない


「はっ、ハハハハハハハハ なんだその手品、お前もしかして、戦闘用の能力じゃないなぁ? 驚かせやがって!」


「いかにも、私の能力は戦闘向けとは言えませんね。 けれど――」


 その時だった、ドロンの足元だけ巨大な本の見開きのようなものに変わっていき、ドロン本人は小さくなっていく。


「なっ。 なんだこれは! 俺の体が小さくなっていく!?」


 そして、床の本にある変化が起こった。


「噓だろ。 表記されている文字が、浮き始めた!?」


「くそっ!! 文字が体に巻き付いて、動けない!」


 そして、文字が絡まったドロン本人も浮き始めた。


「クソッ、クソッ、クソッ、オイ! あんたいくら欲しいんだ?! 俺、結構持ってんだよ、助けてくれたら、いくらでもやるぞ!」


「うーん。 お金にはあんまり興味はないですかねぇ」


「それか、なんか欲しいもんがあったら、言ってくれよ、買ってやるから!」


「欲しいものですか。 そうですねぇ。 あるにはあるのですが――」


「あなたみたいな小物には、手に入れることが出来ない代物ですから、遠慮しときます」


「なんだと! てめぇ、俺をコケにしたことを後悔させてやる、「スコーピオン」は必ずお前に報復に来るからな!」


「あーそうですか。 では、遺言はそれでよろしいでしょうか?」


「まっ、待て!」


 両手を開きまして――



読過リードスルー!!(パーン)」



「バタン!!」


「本が閉じた」


「ドロン様、あなたの言う通り、私の能力は戦闘向きではないのかもしれません。しかし――」


「必ず、だと自負しております。 って聞いてないか」


 店は静寂に包まれ、閉じた本から、ドロンの血が垂れていた。


「お客様、大変お騒がせしました! 引き続きを楽しんでください。 それと、くれぐれも、ここで起こったことは外部に漏らさないように」


 全員がゾッとした。 けれど、すぐ元のにぎやかさに戻っていった。 そして、本は元の床に戻り、いつの間にか小さな本になって管理人の右胸ポケットに収まっていた。


「すごいものを見たな。(改めて闇が深い場所だ) 少し休憩してから帰ろう」


「お客様」


「先ほどは、大変お騒がせしました。 お詫びに、本日のお代金は頂きません」


「おう、そうか そういえば、1つ質問なのだが、を敵に回して大丈夫なのか?」


「その点は、ご心配なく、我々は、1、組織ではございませんので」


「なるほど」


「では、最後にこちらから1点、ジョルジュ・シン様、先日のテレビ番組拝見致しました」


「おう」


「その中で、「ディアボロス・ブラックのアジト知っている」という発言。 我々の間で、少し、問題になりましたので、以後お気を付けくださいね。 もしかしたら、480。 ではごきげんよう」


「ゾクッ!!(なんて薄気味悪いやつだ)」


 後日、マフィアグループ「スコーピオン」の壊滅が報じられた。この事件の詳細が明らかになることは決してないのだろう――



 ー2週間後、月曜午前7時00分 サルード戦争跡地ー


 ここが、ニースの言っていた教会、この中にブラックが――


 ギギギギギギ…… 


 バタン!!


 誰もいない、本当にここであっているのか?

 というか、これはひどいな、スタンドグラスは全て割れて、いたるところに銃弾の痕がある。 こんなところに、いったい何の用でブラックは来ているのだ?


 教会はこの地で起きた争いの悲惨さを物語っていた。その中でシンは、あるものに目を奪われた――


 何だこの像は? 聖母像なのか?


 教会の奥にある、大きな女性の像だ。傷だらけの体にも関わらず、美しく微笑んでいた。


 これはすごいな、いったいいつからあるの(バタン!!)


 !? 


「誰だ!!」


 そこには、170cmくらいの痩せ形の老人が立っており、ゆっくりと近づいてきた。 病弱で、戦闘とは無縁そうな風貌であったが、尋常ではない闇のオーラを放つ彼に、シンは底知れない恐怖を感じた。 そして、確信した――


 こいつがディアボロス・ブラックだと。


「挑戦者か、何10年ぶりだろうな。 しばし待て。 すぐに絶望の淵へ落としてやる。」


「ゾクッ!(なんだこの威圧感は! 気を抜くと失神してしまいそうだ!)」


 ブラックは、聖母像の近くまで来ると、目を閉じ、手を合わせ始めた。


 お祈りをしているのか?


 それは10分にもおよび、その間、全く生気を発しない、死人のようだった。奇襲を仕掛けることもできたが、俺の良心がこの儀式の妨害を拒んでいた。


「さてと。 外でやろう――」


「おっ、おう」


 二人は外に出た、空はブラックを映したような曇天だった。


「1つ問う。 汝はなぜ戦うのだ? 金か地位かそれとも 正義か?」


「おっ、俺は――。 自分が最強だと証明するために戦うのさ!」


「そうか」


「待たせたな。 始めよう、挑戦者よ――」


 第4話 FIN

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