第3話 釣り場にて

 99%の人間は、世界の闇の部分を知らない。けれど、この人物の名前を知らない者はいない――。



「ディアボロス・ブラック」だ。



 彼は世界で最も危険と言われる組織「根源オリジン」の創設者であり、かつて、彼の首にかかっている、550億ドール(現在は780億)の賞金目当てに、名のあるロックオン達が声を上げた。しかし、ブラックには誰も勝てず、挑戦者たちは、魂が抜けた屍のような姿で生還し、その後、廃人になった者や自ら命を絶った者が続出した。以降、ブラックに挑む者はいなくなり、「根源オリジン」が世界の闇の部分を蝕んでいった。現在、ブラックや「根源オリジン」について触れることは禁止され、人々は深い闇の世界を知る彼を、「世界の深淵を知る者」と呼ぶようになった――。



「シン様!」


「どうした、マトンよ?」


「なんであんなこと言ったんですか! テレビ放送で!」


「なぜって? 世間の注目を浴びるため。 そして、俺が最強ってことを証明してやるのさ!」


「おかげで、経営している会社の株が暴落して、倒産も時間の問題です! それと、マスコミの対応に追われるストレスで、私、20キロも増えたんですよ!」


「あーそれは悪かったな。 まぁ、ブラック倒せば世間の馬鹿どもの評判は変わるさ」


「ったく。 でっ、勝算はあるんですか?」


「なかったら、こんなことしないさ。 それと、今晩、「釣り」に行ってくる」


「夕食はなしということですね。 わかりました」



 毎月第3週の土曜、午前2時、とある場所にバーが開店する。 そこは、世界中のありとあらゆる情報が行き交う、巨大なコミュニティが形成される。 隠語で、店を「釣り場」と呼び、情報を「子魚」、情報屋を「親魚」、情報を得る者を「釣り人」と呼ぶ。 そして、情報を得ることを「釣り」と呼ぶ。



 いつ来ても不気味な店と客だ、世界情勢を変えるような情報が行き来してるのに、みんなへらへら楽しんでやがる。


「おい、あんた、シンだろ?」


「情報屋ニースか」


「例の件なんだが。  2週間後の月曜午前7時、北東に約180キロ、サルード戦争跡地にある小さな教会にあいつは必ず来る」


「なるほど。 しかし、なぜ教会なんかに?」


「すまない。 それは本人に聞いてくれ」


「まぁいい。 エサだ(100万ドール)沢山の優秀な子を産んでくれ」


「感謝する。 そして、健闘を祈っている」


 そう言い残すと、ニースは「釣り堀」を去っていった。


  「2週間後か」


 立ち上がり、「釣り堀」を出ようとしたときだった――


「あれっ! あんたシンじゃないかぁ! 見たよ、テレビ! ブラックと戦うんだってぇ!」


 酔っ払いか、面倒だな。


「いゃーブラックなんかに挑む馬鹿がこんなとこにいるとは俺も驚いたぜ! 知らねーのか、敗者の末路。 ありゃ、トラウマもんだぞ! 俺だったら絶対やらねぇ!」


 シンや、店中が男に嫌悪感を抱いていた時にそれは起こった。


「お客様、管理人のブックと申します。 他のお客様が迷惑しておりますので、退出をお願い致します」


「あーん 俺この店にどんだけ貢献してると思ってるの? てか、おれ知らないの? 「スコーピオン」ってマフィアの首領だぜ」


「スコーピオン」 確か、新興マフィアで麻薬ビジネスが当たって、勢力が拡大していると聞いたことがある。 敵に回すと面倒だな。


「存じ上げております。 「スコーピオン」のキル・ドロン様。 確か、薬のせいでトップの頭がおかしいと世間で話題でしたよね?」


「なんだとてめぇ!」


「本当のことを言ったまででございます」


「てめぇ 殺してやる!!」



 ババババババババ!!



 ドロンは銃を乱射した。


「がはっ!」


 銃弾が管理人ブックを貫いた――。


「キャーッ!」


 店内に客達の悲鳴が鳴り響いた。


「はっ… はっ… 俺をコケにするからこうなるんだ!」 


「うるせぇぞてめぇら!」


 ババババババババ!! 


 ドロンは興奮し、銃を乱射し始めた。


 その時――


 ボキッボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキ


「えっ!?」 


「噓だろ。 体が再生した、化物かこいつ!」


「いやはや、この店が普通ではない事など、百も承知でしょうに、その管理者が、ただの人間とお思いで?」


「なっ。 なんなんだよこいつは」


「あなたは、店の秩序を乱しましたので、


 店員は、制服の右胸ポケットに入っている小さな本を開きこう呟いた――。


「これで479ページ目か」と。


 第3話 FIN

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