12 手に入りやすいものは限られる

「それ以来、女性が信用、ならなくて、コミュニケーションを取ることも、ままならず……」

「いや、それは仕方ねえよ……」

「むしろ、そんな魔女witchにひっかかってなるな、という方がムリ」

「あー、なるほど」


 慰めと同情とはげましと、三種類の色が含まれた直人なおととロビンの言葉の後に、紀美きみが納得の声をあげた。


「だから、だ。キミはトラウマゆえに女性全般が信用できない、つまり、受け入れられない。トラウマと向き合う事は、傷を受け入れること。つまり、もう一度女性を信用しようとすることと、同義になる。だから、トラウマに従って夢を忘れていることが、リャナン・シーに対する静的な拒絶になってるんだ。ただ……」


 紀美きみが困ったように眉尻を下げる。


「逆に、黙っているのは褒めているTacent, satis laudant.黙る時は賛成を叫んでいるCum tacent, clamant.ではないけど、明確な拒絶をできてないから、沈黙は肯定という形で、静的な受容という天秤が釣り合わないぐらいの、受容と拒絶が六対四みたいな状況で、ごりごり削られてる、みたいな……?」


 そこで疑問形にされると全然締まらないのだが。


「……そこを確実に言い切れたら、ボクらがやってるのは神秘occultじゃないし、たぶん、センセイは胡散臭うさんくさくない」


 純也じゅんやの考えを見透みすかしたようにロビンがそう言った。


「そう、それはそう。だからここまで来たら、後はとりあえず一時しのぎの対症療法考えるのと、日程調整、でいいよね?」

「うん、オリカでなんとかなると思う。センセイは最終手段」

「ねえ、気のせいか、困った時の織歌おりかちゃんになってない?」


 直人なおとの言葉に紀美きみとロビンは目を合わせてから、ほぼ同じタイミングで首を横に振った。


「オリカは一点特化。センセイは万能。ソコは見誤ったらダメ」

「逆に織歌おりかで駄目なら、僕が動くべきって事になる、はずだから……うん、今回は僕が動くと、ちょっとねえ、ロビンだけじゃなく、ひろにも怒られそう……」


 じろりと視線を送るロビンから、気まずそうに目をらしつつ、紀美きみがぽつりと師匠の威厳がない言葉をこぼした。

 やっぱり、弟子というよりお目付け役なのではないだろうか。


「だけど、紀美きみくん、対症療法なんてあるの?」

「ん、残念だけどリャナン・シー独自のものはない。ただ、妖精全般が苦手とするものは決まってるからね」


 そう言って、紀美きみは最後の砂肝を口で串から引き抜く。


ironナナカマドrowanニワトコelderパンbread……まあ、後はよくある西洋系の護符amulet全般だね……ボクは和鋏わばさみとか良いと思う」


 純也じゅんやとしては、パンが妖精けになるなんて初耳だし、そもそも最後は何故、そんな微妙にニッチなものをすんだろう、といったところである。

 直人なおとの様子を見てみると、直人なおとも微妙な表情をしていた。

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