11 終了における作法について

「で、織歌おりか、ひとりかくれんぼのここまでの流れの意味合いは分かりましたね?」

「はい」

「じゃあ、その後は?」


 そう問えば、織歌おりかはぐっとこぶしにぎって口を開く。


「まず、かくれんぼになぞらえるので、鬼ではないものを見つけて、鬼役を移行させるのは妥当です。鬼役を移行する際の宣言は自身が鬼になる時と同じ、自他の切り分け。刃物で突き刺すのは、この時点のぬいぐるみは、ただ呪術的に実行者への感染性を持つ独立した人形ひとがたでしかないからで、心霊現象を発生させるトリガー、つまり、自身に感染する呪物じゅぶつとするための呪いのトリガーとして刺傷ししょうもちいている、と考えられます」

「……文句の付けようがやっぱりないですね」


 自信ありげにこぶしにぎっただけの事はある。

 カップを手元に戻して、玄米茶を一口すする。


織歌おりかの言う通り、なぞらえ元がかくれんぼなので、鬼を移行させた後に隠れるのも妥当です。では、塩水を口に含む意味は?」

「少なくとも、一つは確実に声を出さないため、だとは思います。物音だけではその人が隠れているかは判別できませんが、宣言にも声を使っている以上、ぬいぐるみは

「気付かれないように沈黙する。妥当な範囲だろうね。でも、ヒロはそれだけじゃないと思ってるんでしょ」


 織歌おりかの考えを評価したロビンがひろにそう聞いた。


「まあ、そうですね。主に終了手順からの考えですが……とりあえず、そもそもとして塩水である意味はわかりますね?」

「塩と水の浄化作用を期待しているんですよね。最終的に燃える方法で処分するように言われてるので、火による浄化も……浄化作用のオンパレードって感じですね」


 織歌おりかの言う通り、これでもか、とぬいぐるみを浄化する手順だ。

 そんなんするなら、やらなきゃいいのに、と常々つねづねひろは思う。


「塩水による浄化は、まずコップの水、それから実行者が口に含んだ水の順番でかけるよう指定があります。物量作戦で弱ったところにトドメっていうイメージはありますね」


 ロビンがなんとも言えない視線でこちらを見ているのがわかる。


「さっきのカップの例と同じく、コップはただの入れ物です。意味があるのは塩水だけ。しかし、実行者が口に含んだ塩水はこれと比較すると、、この三点に意味があってしかるべきとなります」

「差異の検討は差別化の検証、ひいては理由の考察の糸口だからね、うんうん」


 紀美きみがご満悦といった様子でにこにことうなずいてから、で、と口を開く。


「まず、織歌おりか、キミはさっきの内容以外でなら、実行者が口に含む理由をどう考える?」

「……そうですね、実行者が口に含むのは、コップ一杯の塩水の一部、です。感染性という考えから言えば、コップ一杯の塩水すべてが実行者に帰属するとみなす、と考えられるのではないでしょうか」

ひろは?」

おおむね同意ですが、実行者個人よりも、に帰属すると考えます。異界と人界における人界側という認識です」


 難しく言わなければ、織歌おりかひろ自身の考え方の違いは、より大局で見てみた、というところだろうか。

 織歌おりかは個人に、ひろ自身は個人に紐づくカテゴリに塩水が帰属すると考えているので。


「とりあえず、二人とも塩水が実行者のものであるためと示すために口に含むと考えられる、ということだね。確かに、それなら実行者の口であるべきだ」

「他にも考えようと思えば、鬼と会話した口を浄化というのも考えられるけど、口に含んだ塩水をかけることと、その後の勝ちの宣言があるから妥当とは言えないよね」


 うなず紀美きみの向かいで、ロビンがあえて、あり得ない可能性に触れる。

 まあ、紀美きみ気紛きまぐれで確認しそうな点を先につぶしてくれたと思えば、ありがたい。

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