3 前準備

「抵抗……とはいえ、なんだか支離滅裂しりめつれつだったような……?」


 織歌おりかつぶやいて首をかしげる。


支離滅裂しりめつれつでおかしくないですよ。ああいう時の意識って混濁してますからね」


 だからこそ、昔はべて狐憑きつねつきだったのだ、とひろは思う。

 昔々の人々の世界、つまり生活圏内や認識範囲はせまかった。となれば、錯乱してわめく内容がその小さな共同体範囲で似通ったパターン化したっておかしかないのだし。


「それに、発端自体が発端ですからねえ。ひとりかくれんぼ、なんて」


 そう言ってひろは玄米茶を一口すする。


のろいの模倣である時点でたちが悪い」

「……うーん、その、ひとりかくれんぼってそんなにダメなんですか?」


 織歌おりかが首をかしげる。

 言い方からして、ひとりかくれんぼをよくわかってなさそうだ、とひろは思う。

 とはいえ、現状衰退すいたい一途いっと辿たどるものではあるので仕方ない。


「まあ、今時やろうと思っても難易度高そうですしねえ。主にテレビの砂嵐」

「理論的に考えると、周波数を自分でチューニングするタイプのラジオとか、スマートフォンのキャリアメールのサーバ問い合わせを代替にしても、行ける気はするんだけどねえ」

「いや、最近キャリアメール自体ほぼ使わないでしょ」


 けらけら笑う紀美きみにロビンがつっこむと、紀美きみはえー、と不満そうな声をあげる。


「テレビの砂嵐にキャリアメールのサーバ問い合わせってどういうことです?」


 織歌おりかの疑問があまりにもっとも過ぎる。

 しかし、まあ、状況をかんがみるに。


「まずは、ひとりかくれんぼの説明からでしょうね」


 ちらりと視線だけで横方向を確認するが、相変わらずにこにこしてる師匠も、なんだか楽しそうな兄弟子あにでしもこちらをお茶請ちゃうけに高みの見物スタイルである。

 茶々や補足は飛んでくるだろうが、説明自体はまるっとひろに一任されている。


「んー、ひとりかくれんぼは、さっき言った通り、知識ある人間から見れば、のろいの模倣です。ただ、一般認識としては手軽にできる心霊体験遊びものですね」


 過去形。

 テレビの地上波デジタル放送化により絶滅したとみていい。テレビの砂嵐画面がキーだからだ。


「なんというか、言い方からして、められたものではない、というのは認識しました」

「そりゃあ、呪いの模倣で発生する心霊現象を楽しむためのものなんですもん。悪趣味きわまりないでしょう?」

「つまり自己責任論でいくと、何をどうやってもやった本人が悪いんだねー。一時期ネットでは実況スレッド、実況配信とか複数立ってたし」


 ずぞぞ、とお茶をすすって紀美きみが言う。

 案外、この師匠の守備範囲はあなどれない。その守備範囲にしても、実年齢に対しての見た目にしても、いつになっても老人あつかいなんてできない気がする。現時点でも。


「とまあ、そんな心霊的火遊びだったんですね。手順としては、諸説あったり自己流アレンジする奴もいたりはしますが、基本は同じです。まず四肢ししのあるタイプのぬいぐるみを用意します」

「……人形じゃなくて、ぬいぐるみじゃなきゃだめなんですか?」


 おお、と横で紀美きみとロビンが目配めくばせしてどよめき合っているし、ひろするどいなあ、と思う。

 人形は人形ひとがたにも通じる、という意味なら、確かにのろいの模倣にうってつけ、それっぽいのだ。


「まあ、基本ぬいぐるみですね。何故なら腹をかっさばいて、綿を抜き出す必要があるので」

「かっさばいて」

「……かっさばいて」


 異口同音いくどうおん鸚鵡おうむ返しツッコミが横から入るが、視線すら向けずに黙殺しておく。


「綿、抜いちゃうんですか?」

「はい。代わりに米と一緒に爪とか髪とか自分の身体の一部を詰めるんです」


 織歌おりかの眉間にわずかにしわがよる。

 たぶん、具体的な行動は理解したけど理由がまったくわからないからだろう。

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