5 当日

 ◆


 土曜日の午後一時丁度。

 鳴り響いたインターホンのカメラ画像を確認すると、ひろともう一人、可愛かわいらしい少女がうつっていた。


 玄関を開けると、ひろはにこりと笑った。


「こんにちは、小柴こしばさん。お守り、どうでした?」

「たぶん、効果はあった……と思います」


 この三日間、とりあえず、美佳みかが例の視線を感じるのは家の中だけにとどまった。

 もしかしたら、例のお守りをかばんに付けていたからかもしれない。

 大体、お風呂やトイレなど、かばんを置いてない場所で感じたからだ。


「それは良かった。上がってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「それではお邪魔します」

「お邪魔します」


 トートバッグを肩に下げ、だぼっとしたタイプの白いTシャツにカーキのサブリナパンツを合わせたひろに対して、続いて入ってきた少女の方はゆるく巻いたような栗毛くりげのセミロングの髪にシフォン地のブラウスとハイウエストのフレアスカートという上品な出で立ちをしている。

 先日のロビンといい、まるっきりタイプが違う美形の人間がこうも集まるのか、と美佳みかは感心に近い気持ちを覚えた。


「ええと、とはいえ、今回のわたしは彼女の付添つきそいとしてというところが大きくてですね……織歌おりか

「はい。小柴こしばさん、はじめまして。私、賢木さかき織歌おりかと申します」


 見た目とぴったりな声はふわふわとやわらかい。

 こんな時でもなければ、少し連れ歩いて着せ替え人形みたいなことをしてみたくなるようなタイプの少女だが、頼りにするというにははかなげすぎる。


「……はい、よろしくお願いします」

「こう見えて、織歌おりかは能力としては見た目以上ですから、安心してください」


 思った事をかしたかのように、ひろに言われて、美佳みかは少しだけ、どきりとした。

 それから、ひろは一度ぐるりと部屋を見回す。


「念のためとも思いましたが、そもそも部屋を変えてるという事でしたし、やはり原因は部屋ではなさそうですね」

「……たぶん、それは、そう、だと思います。お守りを付けたかばんをそこに置いてますし、それ以降、家の中では、お風呂やトイレで感じるだけでしたから」

「となると、外で感じる、ということもあったんでしょうか?」


 こてり、と首をかしげて織歌おりかが言う。


「はい……ただ、お守りを持つようになって、少し、条件が分かったかもしれません。私が、一人に、なった時、なんです」

「ふむ、なるほど……じゃあ、やはり他者の視線が抑止よくしになっている、と考えるのが順当ですか」


 ひとごとのようにひろがそう言う。

 その他者の視線がまがい物であっても、あの瑠璃るりの目玉のキーホルダーがいたのは確かにそういう事なのだろう。


織歌おりか

「……は、はい」


 ひろに声をかけられて、織歌おりかが少し緊張したような上擦うわずった声で返事をした。


小柴こしばさん、始めましょうか」

「……はい、どうすれば、いいでしょうか」


 何かしなければならないのか。

 特に何かを用意するようには言われていなかったはず。

 そう不安になった美佳みかに、ひろはただカーペットの上に座るようにうながした。

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