4 応急処置

邪視じゃしけのお守りは他にもありますが、今現在の日本に浸透していて、有名であるかつ、チャームとして使うという意味だと、そのナザール・ボンジュウが一番なもので……ロビンの目利めききは確かなので、効力がないなんてことはありません」


 こうしてにらみ合っているとなんとはなしに、愛嬌あいきょうがあるような気もしてくる。

 あれだろうか。某有名妖怪アニメに出てくる、ほぼ目だけのキャラクターと親和性があるからだろうか。


「ヒロ、説明と調整、終わった?」


 財布を手に、ロビンが会計から戻ってきた。


「……説明しか終わってないです」


 その返事を聞きながら、ロビンは自分の座っていた席に戻り、目の前でナザール・ボンジュウとにらめっこをする美佳みかを見て困ったように笑った。


「どうぞ、持っててください。ボクらもそれだけで終わりにするつもりもないですし、その程度でお金を頂くつもりもないですから……というより、次の施策しさくまでのつなぎなんで持っておいていただけないと、保証ができません」

「あ、そう、ですよね、すみません」


 命の保証はないとにおわされて、初めて美佳みかはナザール・ボンジュウを手にとった。

 直径四センチほどのひらたい瑠璃るりの目玉は、硝子がらす特有のひんやりとしてつるりとした感触と、見た目の体積のわりにしっかりとした質量を手に伝えてくる。

 こうして見ると、なんというか、あの視線とは別に、しっかり見られている感じはする。


「ええと、話を戻して、日程なんですが……ASAPなるはやで、三日後、土曜日の午後一時になります」

「じゃ、じゃあ、それで、お願いします」


 ひろの言葉に食い気味で美佳みかが答えると、彼女はにこりと笑って、わかりました、と言った。


 ◆


「それでは、三日後、土曜日の午後一時に先程頂いた住所に、わたしともう一人、これも女性ですが、直接おうかがいしますね」

「もし、何かトラブルや、再調整が必要な場合は、こちらの番号におかけください」


 店を出たところで、そう言って、ロビンが事前に準備していたらしい数字を書きつけた名刺大の紙を美佳みかに渡してきた。

 少なくとも、ひろがノートに書いていたこじんまりとした文字よりも、とても豪快に勢いよく書いてある。

 意外とダイナミックだが、ロビンの筆跡なのだろうか、と思いつつもそれを受け取る。


 ちなみに、この喫茶店の会計については成功報酬ということで、と悪戯いたずらっぽく笑ったロビンにウインクされてしまった。

 少しひろあきれていたように思うが、あれは対女性に対してはなかなかに兵器である、と免疫めんえきがあまりない美佳みかは思う。目つきは悪いけど。


「わかりました。あの、土曜日、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 深々と頭を下げた美佳みかは、そのかばんのフォーマル感にそぐわない瑠璃るり色の目玉のチャームを揺らしながら、最寄もよりのバス停に向かった。


 ◆


 その美佳みかの背が見えなくなった頃。


「……気付いた?」

「あの手のを、ロビンが気付いて、わたしが気付かないはずがないでしょう」


 意図的に作っていたにこやかな表情をやめ、本人としては真面目まじめなだけの、やたらけんの強い表情になったロビンの言葉に、ひろは肩をすくめて返した。


「オリカには申し訳ないね」

「でも、いつかは通る道でしょう。仕方がないです」


 罪悪感を感じるだけ無駄とすっぱり切り捨てながら、ひろ美佳みかの去った方向を見据みすえて、目をすがめた。


「ま、刃物持ち出されたとしても所詮しょせん素人しろうとですから、わたしがフォローしますよ」

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