13 不審者こと先生の事情

 ◆


「センセイ、何してたの?」


 気が立っているのがよくわかるロビンの声が紀美きみ鼓膜こまくに突き刺さる。


「ん~、ボランティア?」

「ふーん? 肝心のクライアントはボクに任せて?」


 こういう時、凶眼きょうがんほど感情を強く表現できるものもない、と紀美きみは思う。

 というかロビンの場合は、それだけじゃないものが乗ってる時があるのだが。


「小学生相手だから」

「……」

「それにあの子、スケープゴートにされるところだったし……」


 そう紀美きみが言えば、ロビンは仕方ないと言わんばかりの、大きな大きなため息をついた。

 そこはもう、勝手知ったる仲だ。


「で、そこの自販機と関係あるの?」

「あ、なんか見える?」


 ロビンはこっくりとうなずいた。

 そして、じっとそのどこかネオンっぽさもある青い目で、自販機の中を見透かすつもりのように見つめる。


「なんか、こう、もやっぽいのある。明日には自然消滅すると思うけど」

「なるほど、そう見えるのか」

「そして、それの名残なごりがセンセイの手から見える」

「うっ」


 ちくりと釘をすようにロビンが言う。完全にバレている。

 バレないこともない、とは紀美きみは予想していたが。


「……コックリさんのね、十円玉。なんにも知らされずに使って欲しいってだけ頼まれたらしくてね」

「そんなの受ける方がおかしいでしょ」

「……スクールカーストって怖いよね。しかも女子グループの非難とか怖いでしょ」


 あー、と言いながら、ロビンは面倒くさそうな表情を浮かべた。


「それで、その十円玉、センセイが使ったのね、納得」

「ついでに多少、本来代償を払うべき人間が払うように印象操作を……」

「……」


 ロビンが眉間にしわを寄せて、額を手のひらでおさえた。

 どこまでやってんだ、こいつは、というのがひしひし紀美きみにも伝わってくる。


「いや、だってさあ」

「……大丈夫、わかってる、センセイがそういうお人好ひとよしだってことは、身をもって十二分にボクはわかってるから」


 ロビンはそう言って、あきらめとあきれをふくんだ表情で紀美きみを見た。


「だからこそ、あんまり軽々しく身をけずってほしくはないんだけどね」

「今回は特に何もけずってないからさあ」


 言いながら、紀美きみはペットボトルのふたを閉めた。

 それを見ながら、ロビンは少しだけ目を細める。


「……結果的にでしょ、それ。言っとくけど、前みたいに勝手に目を犠牲にするぐらいなら、巻き込んでよね」

「うーん、しっかりした弟子がいて僕は幸せだよ」


 紀美きみがそう言えば、ロビンは少し照れたように、はいはい、と適当にあしらって、ふいっと元来た方に顔を向けた。


「まあ、全部終わったし、帰ろう、センセイ」


 耳を真っ赤にしてそう言った一番弟子の言葉に、紀美きみはそうだね、と返事をして、お茶のペットボトルをげて歩き出した。

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