12 不審者かく語りき

 晴人はるとはそれにうなずいた。

 同時に、おにーさんにあの十円玉を奪われてから、心にし掛かっていた少しばかりの後ろめたさが、不思議とするっと引っ込む。


「センセイ! こんなところにいた!」


 そんな青年の声が道路の向こうの方から聞こえた。

 そちらを見れば、何本か向こうの道路の方から、ひょろりと背の高い金髪の青年がこの駐車場の方に小走こばしりにやってくる。


「あーらら、見つかっちゃった」


 いたずらっ子の笑顔を浮かべて、おにーさんは肩をすくめた。

 気のせいでなければ、先生、と呼ばれていた気がする。

 いや、でもこんな人が大学の先生だとしたら、ちょっと世の中の行く末を小学生なりに心配してしまう。


「ああ、後で何者か教えるって言ったね、そういえば」


 くすくすと笑いながら、おにーさんは右目のあたりにかかった前髪をき上げた。

 最初から鬱陶うっとうしそうな左側はそのままだ。


「僕は、そう、世間的に言えば、霊能力者ってやつさ」


 胡散臭うさんくさいこと、この上ないだろ? とおにーさんは笑いながら言う。

 確かに胡散臭うさんくさい。胡散臭うさんくさいけど。


「でも、僕に話しかけてくれたの、僕がコックリさんの変な事に巻き込まれないようにって事でしょ?」


 そう言うと、おにーさんは誤魔化ごまかすようにまばたきをして、それから一度視線をらすと、最後には観念したように眉尻まゆじりを下げて笑う。


「まあ、そうなるよ、うん。面と向かって言われると、なんかむずがゆいけど……」


 確かに胡散臭うさんくさくはあるが、なんだかカッコイイ、と晴人はるとは思ってしまった。

 いや、ところどころ格好かっこうがつかないところもあったけれども。


「あ、今こっちに来てるお兄さんに捕まると長いから、もうキミは帰りなさい。主にしかられる僕に付き合うことになるから」


 最後も格好かっこうがつかなかった。

 というかそう言われると、このおにーさんのおかげでたぶんきっと助かったとはいえ、しかられるなんていうとんでもなく嫌なイベントに付き合うほどの義理はない、と思う。


「ほら、もう行きな」

「……あの、ありがとう、おにーさん」


 半分だけ残ったコーラのペットボトルをかかえて、晴人はるとはこちらに走ってくる青年をける遠回りのコースの家路いえじを選択して、駆け出した。

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