11 不審者が言うことにゃ9

「というわけで、コックリさんにおいてはそこに当てられた漢字の中で、何よりもキツネというイメージが先行する。これはコックリさんをやるに当たって、油揚あぶらあげをその場に置いてはいけないというルールにも見られる。それに加えて、今まで説明した通り、コックリさんはルールを守れば安全であるとされる以上、人を化かした挙句あげくに殺すタヌキとは相いれず、犬はそもそも怪異であるというイメージ自体が希薄である」


 ――本当はなくもないんだけど。

 そんなつぶやきをするのが脱線の元だな、と晴人はるとはとうに理解していた。


「そして、人に近すぎる犬や、人を殺す化物であるタヌキより、お稲荷いなりさんという神様の使いであるキツネは神託しんたくくだすに相応ふさわしい動物だ。キミもそう思うだろ?」

「……そう言われると、そうかも」


 なんとなく、コックリさんがキツネ、犬、タヌキであると聞いた時点から、実際にはキツネが動かしていた方が、とは思っていた晴人はるとである。

 ここまで論理的に説明されると、自然と納得してしまった。


「で、さっき話した通り、お稲荷いなりさんは今やあきないの神としての側面が強い、ということは、だ」


 きゅっとおにーさんは目を細める。

 ちらちらと西日に緑の光が揺らいでまたたく。


「お金を消費するという行為は経済の活発化に繋がる。つまり、お金を使うということは、お稲荷いなりさんにとって自身の加護する分野に良い影響を与えることになる。コックリさんの問答を神託とするなら、向こうは代償、対価として自身の加護範囲内への小さな献身けんしんを求めると考えられる」

「……コックリさんに聞きたいことを聞く代わりに、お稲荷いなりさんへの手助けとして十円を使えっていう、取引ってこと?」


 ここまでの長い話が、そんなところに行き着くのかと、晴人はるとは少しぞっとした。

 おにーさんは一つうなずいて、晴人はるとの目をまっすぐ見つめた。


「そう。そういう風に解釈できるよねって話。だからこそ、が他人が支払うべき対価を払う必要は

「……でも、最初、おにーさん、それは僕と、あの子の取引って」

「そうだね。でも、の間ではそうかもしれないけれど、その子とコックリさんの間の取引はまったくの別物だし、対象の分類が違うだろ? だから、コックリさんが取り立てを行うのであれば、対象はその問題の子であるべきだし、それがその子のためでも、キミのためでもある」


 わかった? とおにーさんは晴人はるとに向けて首をかしげる。

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