6 不審者が言うことにゃ4

「そこまでは言わないし、日本に限った話でもないさ。でも自分一人ではできないなら、できる人間に助けを求めて、代わりに何かあげたり、逆に相手ができないことをするだろ? 互恵性ごけいせい互酬性ごしゅうせい、つまりは取引。人の社会の営みとしての基礎の一つだ」

「……それを人じゃないものにも適用するの?」

「正確には適用して勝手に期待するだけだよ。良い結果が返れば、対価として相応ふさわしかったとするだけ。悪い結果が返れば、対価として相応ふさわしくなかったとするだけ」


 そう言ってまた一口お茶を飲むと、おにーさんは困ったような笑顔になってこっちを見た。


「キミの現状だって、そう変わらないぜ? キミの言うところのクラスのマドンナも、クラスメイトも、クラスのマドンナと会話できて、そのマドンナから頼まれ事を受ける事自体を、しかるべき対価としてキミに勝手に期待して、キミはその期待を裏切った時の反応を天秤にかけて、その厄介そうな頼まれ事を引き受けた。だろ?」

「う……」


 そう言われると、晴人はるとは否定できなかった。

 そして、そうか、神様にそういう圧を自分達は与えているのか、とも思う。


「人の想像力には限界がある。どうやったって人は人のことわりを元にしか考えられないんだから。だから如何いか荒御魂あらみたまとて、しかるべきもてなしによりさいわいをもたらすものとされる……そういう意味だと、コックリさんは本来ともなうはずの対価すらともなわないから、扱いが雑。というか、うっかりするととかの方向にも近いかな。アレは条件をそろえる必要はあっても、対価は必ずしも必要ではない。だから、やっぱり西洋生まれとした方が得心とくしんがいくんだよねえ」


 のほほんとしながらもとんでもない単語が聞こえた気がして、晴人はるとはコーラに軽くむせながら、おにーさんを強張った顔で見上げる。


「おにーさん、本当に何……?」

「ははは、魔術師マジシャンは実はそう遠くないんだよ。まあ、あくどい事はしてないよ、ちかって」


 通りすがりのオカルティストにしたって限度というものがある。


「まあ、そんな雑なあつかいだからこそ、十円玉をはやく使え、というのは、日本のけがれ思想の反映である反面、対価としての側面もあるんじゃないかなあって思うわけでね」

「……いや、なんで? コックリさんで呼び出した霊に使うわけじゃないじゃん」


 前半はまだわかる。えんがちょ、とかいうやつだ。

 だが後半はわからない。だって霊はお金なんて必要としない。

 まして、それが動物であるならば。

 それぐらい晴人はるとだって簡単にわかる。

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