How many miles to Babylon? 3

「取り急ぎ、シンシア、キミの知識がほしい」

「はいはい、で、何さ?」


 シンシアは半分ぐらい自棄やけで聞く態勢に入る。


「ロビンの目、たぶん、妖精の軟膏なんこうだ」

妖精の軟膏だってFairy Ointment? はあ、まあ、さっきの言い分と理屈は合うだろうけど」

「あと、ロビンのお母さんはたぶんに確保されてる」

「それを先にお言い!」


 瞬間しゅんかん湯沸ゆわかし

 そんな言葉が脳裏をよぎった。


は約束はたがえないんだろ? ロビンに対して、と言ったなら、確保してるだけだ。ロビンが決断をくだすまでは、本格的な問題にはならないと思う」

「……そうだね、そのあたりは人間の方が簡単にひるがえすからね」


 とはいえ、シンシアにきたいことはそんなことではない。


「シンシア、妖精の軟膏なんこう顛末てんまつ、キミも当然知ってるだろう?」

「ああ、うっかり、軟膏なんこうのついた手で目をこすって、善き隣人達good fellowsの本当の姿を見ちまって追い出されたり、帰らされたりするってやつだろ」

「でもさ」


 気になる点があるのだ。

 他の妖精伝承を考えてみてもちょっと引っかかる。


「その軟膏なんこう、そもそも、妖精が自分の子供のまぶたれって指示したものだろう? じゃあ、らせた?」

「そんなのわかるわけないだろ、語られてないんだし」


 さっきからシンシアの眉間のしわが心配だが、そうも言ってられない。

 それに、の行動はいわば自身が思う理想像の投影であって、その裏にある論理もまた、結局は自身の直感にしたがうか、えて反しているかのどちらかだ。

 だから、というわけはない。


「違うよ。語られてないってことはか、か、のどっちかだよ」


 ああ、またシンシアの眉間のしわが深くなった。

 ちょっと申し訳ない。


「だから、シンシアの協力が欲しい。論理を組み立てて、それを指向性として押し付けるのは僕ができる。その論理の正当性を補完ほかんするために、キミの持っている暗黙の了解が欲しい」

「……いや、それで何をしようとしてるのかが、わからないんだよ。あんたの頭についてける人間の方が少ないってわからんのかい?」


 鼻息を荒くしたシンシアを見返して、ふむ、そうだった、と思う。

 僕の悪いクセだとは思うけど、思ってるけど、思うだけで直ってれば苦労は何一つだってない。


「ロビンのこの力。このままじゃ、どっちにしろ、遅かれ早かれ、ロビンはか、ぞ。まあ、これ、同義だけどね」


 座ったまま、シンシアと僕の様子をじっと黙ってうかがっていたロビンが、びくりと肩をふるわせた。

 シンシアだってわかっていなかったわけではないだろう。顔が引きつっている。

 そんな二人の前で、僕はきっぱりと宣言した。


「だから、これを祝福として定義させて、が手出しできないようにする」


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