Good fellows' Robin 10

「ロビン、こいつの言うことなんざ、無理して理解しなくていいんだからね」


 そう言い残して、シンシアは玄関に向かってしまった。


、すごいね。むずかしい」

「うん、まあ、そうね」


 少なくとも、ロビンには確実に難しいだろう。

 ただ、すごいと言えるかどうかは、個人的には大したことないと思っているのだが、どうやらそうでもないらしい。流石さすがに周囲の反応を見てればわかる。

 えて読まない選択ができるだけで、空気を読めないわけじゃないのだ、僕は。そう、きっと、たぶん。


「……あのね、おばあちゃんGrandma、なの」

「うん?」

「いままでで、いちばんこわかったscariestの」


 こっそりと小さな声でロビンはそう教えてくれた。


「どうして?」

「こわいのや、かなしいのがたくさんいるの。それで、こわいなら、かなしいなら、さみしいなら、って、そういうの。おばあちゃんGrandmaのだけじゃないけど、おばあちゃんGrandmaのまわりにはたくさんいるの。それに、とても、とてもキレイなんだけど」


 こわいの、ととても小さな声で言う。


「ロビンは、その手を取らないの?」

「……こわいから、やだ」

取り替え子チェンジリングと呼ばれて、その火傷やけどをさせられても?」

「……やっぱり、はなんだってわかるんだね」


 ロビンがまた少し、表情をやわらげた。


「だって、きっと、その手をとったら、ボクは死んじゃうか、きえちゃうでしょ? 見えてるの、よきりんじんたちgood fellowsだってわかるもの」

「……わかった。僕はキミの意思を尊重するよ」


 そうしていると、シンシアが困り果てた顔で戻って来た。


「シンシア、どうした?」


 そう問えば、ちょいちょいと手のひらを上向きにした英国式手招てまねきで呼ばれる。

 立ち上がってそちらまで行くと、シンシアが声をひそめて口元をおおって言った。


「……それが、シーラが見当たらない、知らないかって、ロビンのおばあちゃんがやって来たのさ。そっちに関しては知らないから、追い払ったけど」

「昨日聞いた時点だと噂だったの、確定してたんだね、つい最近に」

「みたいだね。でも、ロビンには何にも触れやしない。頭にキたよ」


 ぷんすかという擬音ぎおんが似合うシンシアは置いておいて、なんとなく胸騒むなさわぎがする。

 いや、違う。これは、ざわついてる?


 はっとしてロビンを見れば、ロビンの顔色は血の気が引いて青褪あおざめていた。


 ここまで来たら、例え毒でなくとも皿までらわねばならない。

 もともと生半なまなかなつもりではなかったけれど。


「ロビン、

「ちょっと、!」

「わからないはずがないんだ。だって、キミは僕にすら見えていないものが見えて、聞こえないものが聞こえている。なら、情報源は無限大だ。まして、シンシアが今追加を


 僕の説明を聞いて難しいと言いながら、ある程度は理解したロビンだ。

 情報整理、論理的思考力。その両方は年相応とはいえ、それなりにそなえている。


「シンシアが聞いた事、キミの言うシンシアのまわりのの反応でわかったんだろう? それなら、下手に僕らの間で隠す必要なんかない」

、あんたね!」

「シンシア、キミがロビンを守りたいのはわかるさ。でも、そもそもそのロビン自身が当事者で、きっと。それなら、下手へたに隔離して遠ざけるのは、ロビンにとっても、キミが聞いた事態にとっても!」


 言い切れば、シンシアはぐっとくちびるみしめた。

 一理あるとは思ってもらえたようだ。


お母さんMum……」


 気まずい沈黙をやぶったのはロビンのか細い揺らぐ声だった。

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