Good fellows' Robin 8

「まあ、もちろん、キミからもらうばかりなのも申し訳ない、と僕は思うわけよ」


 シンシアのあきれ返った視線に、ぐさぐさと執拗しつように刺されながら僕は言う。


ギヴgive and テイクtakeって事で、ロビンが話してくれたら、キミが見た僕のまわりの何かのこと、教えてあげる」

「……」

「あ、別に今じゃなくてもいいよ。めちゃうし」

「そうそう、ロビン、こいつは相当の変人だからね。まともに相手してたら、あたしみたいに疲れるだけだよ」


 考え込んでしまったロビンに軽く言うと、視線以上に言葉でぐっさりとシンシアがしてきた。


失敬しっけいな」

「それ以外に反論が出て来ないじゃないか」


 実際反論が出来ないので、手元のサンドイッチを食べるしかない。美味おいしい。

 ロビンも、もそもそとスープを飲み干して、サンドイッチを食べるのに移行している。

 サンドイッチをたいらげて、ぬるくなったスープを口に運びながら、そんなロビンを横目に思考を巡らせる。


 昨日、シンシアとの悪巧わるだくみで手に入れた情報は五つ。


 一つ、ロビンの基本情報。

 フルネームはロビンRobinイングラムIngram。年齢は七つで、例の妖精の取り替え子チェンジリング騒ぎが二年前なので当時五つばかり。家族構成は今のところ母親のシーラSheilaと父親のセオドリックTheodoricに彼のみ。


 二つ、ロビンの母親、シーラはくだんの行方不明事件後から情緒不安定になっている。

 これは想像にかたくない。だが、ひどい時には、今のロビンをロビンと認識できないほど、というのはなかなか繊細な人なのだろう。

 基本、僕は荒療治あらりょうじしかできないので、うっかり心をぽっきりいきそうなのがヤバい。シンシアからも、はっきりとあんたを関わらせたくない人、とまで言われた。


 三つ、ロビンの父親セオドリックはそんなシーラのケアを優先し、やたらとおびえるようになった目の色の変わった息子については、……というのは大分だいぶ情状酌量じょうじょうしゃくりょうをした上での見解だ。

 そりゃ、もしかしたら自分の子どころか、人間ですらない可能性を考えたら、そうもなってしまうだろう。

 それでも、おそらくあのガーゼをとりあえずで貼り付けたのは、この父親セオドリックだとは思う。母親シーラの神経が相当参ってる前提での考えではあるが、そんな繊細な人があんな大雑把おおざっぱな手当をするとは思えない。


 四つ、周囲の大人から見たロビンは基本れ物的あつかいであるらしい。目のせいで臆病になった彼を気にかける者はシンシア以外にもいるらしいが、それ以上にロビンは逃げることが多いという。ロビンの逃げは何も大人だけではなく、子供についても会えば逃げ出すほどではあるらしい。

 そんな状況でまともに学校にかよえるわけもなく、結果としてロビンは孤立している。


 五つ、極々ごくごく最近、シンシアが井戸端会議いどばたかいぎで収集した情報によると、セオドリックはおのれの母親、つまりロビンにとっての父方の祖母を呼び寄せるつもりでいるらしい、との噂があるそうだ。

 ぶっちゃけ、これがポイントだとは思う。

 そのおばあちゃんの出身地とかは知らないけど、古いがゆえの知恵袋というものはある。亀のこうより年のこう。今回は余計な可能性が高いけど。


 子供の一口より大人の一口の方が大きいのは道理なので、先にランチをたいらげた僕とシンシアは、じっとロビンがサンドイッチにかぶりつくのを見ていた。


「あ」

「なんだい、あんたの『あ』なんてイヤな予感しか、しないんだけど」


 残念ながら、そういうことも言われ慣れているので、これぐらいではへこたれない。

 考えをめぐらせていて確認したいことが出てきただけだ。

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